中国は計画的なミッションを立て続けに実施し、地球と月軌道との間の空間(シスルナ空間)において活動拠点となる恒久的な月面基地の基盤を築いた。その目的ははっきりしている。優位な地歩を占め、資源へのアクセス権をコントロールすることである。これはニュースの見出しになることを狙った勝負ではなく、次世紀の戦略的・経済的秩序を定義する闘いなのだ。そして、中国は本気だ。
米首都ワシントンでは、限られた資源をどこに投入すべきかをめぐって議論が続いている。2つの考え方が主流だ。「火星を占拠せよ(Occupy Mars)」と訴える陣営は、有人宇宙探査の最遠到達記録をリーダーシップの証とみなす。一方、「月を植民地化せよ(Colonize the Moon)」と主張する陣営は、地球の延長線上にある実用的な経済圏の構築によってのみ永続的な影響力を獲得できると認識している。
当面の間は月を優先すべきだ。戦争において二正面作戦の愚を犯せば敗北を招くように、米国には月と火星を同時に目指せるだけの資源と産業力はなく、二兎を追えば一兎をも得られずじまいになるだろう。歴史を紐解けば、同様の焦りと過大な野心によって敗れた大国は枚挙にいとまがない。
組織というものは、目標が明確で目的が一致しているときに最高の成果を出す。NASAも同じである。スペースXをはじめとする民間企業が有人火星探査の前に立ちはだかる数多(あまた)の課題に熱心に取り組んでいるが、NASAが全予算を投入したとしても資金は圧倒的に不足するだろう。この点だけでも、宇宙飛行士を「赤い惑星」に送って安全に帰還させる計画はまだ遠い未来の話であり、その実現を目指す国家ぐるみの取り組みは延期すべきだとわかる。
エネルギー供給と生命維持システムの技術が革新的に進展し、惑星間宇宙飛行が定期的に行えるようになるまでは、米国は限られた資源を「月における覇権確立」に集中させなくてはならない。それは戦略的に非常に重要であり、経済的に達成可能で、運用上現実的な目標だ。


