健康

2025.11.05 12:30

メンタルヘルス専門家たちが懸念する、職場の「AI精神病」

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経営陣が新たなAIへの取り組みを発表するときに、胃がきゅっとなるあの感覚を知っているだろうか。AIが仕事を奪い、産業を変革し、今のスキルを時代遅れにするという見出しを目にしたときに締め付けられる感覚のことだ。自分が遅れを取っているのではないか、会社の進め方が間違っているのではないか、もっと悪いことに、すでに手遅れなのではないか、と夜も眠れないほどに苛まれるストレスのことだ。

「そう、その感覚のことです。それについて話しましょう」とストレス生理学者のレベッカ・ハイス博士はいう。AIへのパニックは増加傾向にあり、「AI精神病(AI Psychosis)」の事例もメンタルヘルス専門家を警戒させている(編注:AI精神病、AI Psychosisとも医学用語ではない)。

「AI精神病」の出現

Spring Board: Transform Stress to Work for You』の著者であるハイス博士は、全国の役員会議室や休憩室で、人々がAIに恐怖を抱いているのを目にしていると語る(ただしSFにおけるロボットによる世界の終末のような意味ではない)。恐怖は「これを自分の仕事にどう組み込めばいいのかまったくわからないのに、みんながとっくに解決しているべきだと期待している」という声とともにやって来るという。彼女はこれをAIパニックと呼んでいる。

「では、解決できたら教えてください(当然できるよね?)」というのが社内での暗黙の了解であり、パニックをさらに悪化させる。「ストレス生理学者として、私は、人間が圧倒的で自分の手に負えないと感じられる課題に直面したときにどう反応するかを研究する時間を多く費やしています」とハイス博士は述べる。「そして今、AIの導入はその条件をすべて満たしているのです」。

AIパニックと「AI精神病」はどちらもメンタルヘルス上の懸念だが、同一ではない。ストレス過多が原因でパニックに陥っても、現実とのつながりが断たれるわけではない。精神病(精神疾患、精神病性障害)ははるかに深刻で、誰かが現実との接点を失ってしまう場合に起こり、その体験は本人にとっても周囲にとっても恐ろしいものになり得る。精神病には、幻覚、妄想、まとまりのない発話、異常な身体動作が含まれ得る。

ChatGPTを提供するOpenAIは、「AI精神病」がChatGPTのようなツールに関する主要な安全性懸念として急速に浮上していると述べている。『WIRED』によれば、OpenAIは最近、数十万人のアクティブユーザーがメンタルクライシスの兆候を示し、「さらに240万人が自殺念慮を示している可能性がある」と認め、現実世界のリソースに頼る代わりにChatGPTの支援を求めている可能性があるとした。

学術誌Journal of Cognitive Psychologyの記事も、AI精神病を新たな差し迫った懸念として指摘している。臨床診断ではないものの、「AI精神病」のケースは、メディアやRedditのようなオンラインフォーラムで増加している。この記事は、ソーレン・ディネセン・オスタゴーが2023年に寄せた社説を取り上げ、生成AIチャットボットとのやり取りが、精神病の傾向がある労働者の妄想を悪化させ得る可能性を指摘している。

「ChatGPTのような生成AIチャットボットとのやり取りは非常に現実的で、相手が実際に人間であるという印象を容易に抱かせます。一方で、それが実際にはそうではないとも同時に理解しています」とオスタゴーは述べる。「私の見解では、この認知的不協和が、精神病への素因が高い人において妄想を助長する可能性があるように思われます……生成AIの内部の仕組みは、憶測や偏執的な思い込みの余地を大いに残しています」。

メンタルヘルス専門家は、AI精神病の新たなテーマとして次の3つを特定している。

1. 人々が世界の真理を発見したと信じる、救世主的使命感や誇大型妄想

2. AIを神格化する宗教的妄想で、AIチャットボットを意識を持つ神と信じるもの

3. 会話模倣能力を本物の愛情と誤解する、ロマンチックまたは愛着に基づく妄想

次ページ > 「AI精神病」と現実の境界

翻訳=酒匂寛

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