ロジャースのプレゼンが終わる頃には、カナダの実業家であるケビン・オリアリーを含め、他の審査員も次々と手を引いた。オリアリーは、ギフト登録サービス「ハニーファンド」やウェディング業者予約アプリ「ウェディ」など、ウェディング関連事業への投資経験が豊富だ。彼は、「この分野に長年関わってきたが、顧客獲得コストが明確でない状況では、評価額が100万ドルか500万ドルか、あるいは1000万ドルか判断できない」と述べ、出資を見送った。一方、ご近所SNS「ネクストドア」の創業者でゲスト出演していたニラヴ・トリアは関心を示し、最終的にオリアリーと共同でハロー・プレナップに15万ドルを出資、同社株式の30%を取得する結果となった。
実はオリアリー自身も、1990年に結婚した際に妻と婚前契約書を交わしている。「交際中にお金の話をするのは気が引けると考える人もいるが、それは誤解だ。お金はロマンチックなものであり、人々の夢や憧れをかき立てる」と彼は語っている。
シャーク・タンクへの出演は、ハロー・プレナップの運命を一変させたと言っても過言ではない。ロジャースによれば、同社のエピソードがテレビやストリーミングプラットフォームで再放送されるたびに、顧客獲得コストは平均15%低下するという。
オリアリーは、まだ投資額を回収していないものの、必ずそれができると確信している。「これまで出資してきた案件の中でも、最も成功する可能性が高い投資の一つだ」と彼はロジャースについて語る。オリアリーは、ハロー・プレナップが毎月成長を続けているのは、世代交代の進展に加え、とりわけ女性の間で経済的自立を重視する意識が高まっていることが背景にあると見ている。「いまや結婚式の形は多様化しているが、婚前契約は景気後退にも強い。ハロー・プレナップの収益は、毎年倍以上のペースで拡大している」とロジャースは話す。
2023年にシャーク・タンクで出資を勝ち取ってから2年後、ロジャースはさらなるブランド認知の拡大を狙い、ロサンゼルスの著名な離婚弁護士ローラ・ワッサーに、面識のないまま電話をかけた。ワッサーは、ブリトニー・スピアーズ、キム・カーダシアン、アンジェリーナ・ジョリーといったハリウッドの著名人を担当してきたことで知られる。「ロジャースは、『私たちがあなたの競合になろうとしていると思うかもしれませんが』と切り出した」と、ワッサーは当時を振り返る。しかし彼女は、むしろ共感を覚えていたという。実際、ワッサー自身も最近オンライン離婚サービス「Divorce.com」に離婚進化責任者(Chief of Divorce Evolution)として参画している。「私は、昔からあらゆる分野でアクセスしやすさを高める取り組みに賛同してきた。婚前契約についても、情報を得やすくし、手軽に利用できるようにすることはとても意義のあることだと思う」と彼女は語る。


