米国の現大統領が世界中でこれほど積極的な役割を果たしている時期はなかなか想像しにくい。ここ数週間、中東で新たに結ばれた脆弱な合意、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との電話会談、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領とのホワイトハウスでの再会談、アルゼンチンへの金融財政支援、オーストラリアとのレアアース(希土類)協定、そして中国の習近平国家主席との会談を含むアジア歴訪といった出来事が続いた。
“最高取引責任者”であるドナルド・トランプ大統領は、中東情勢への対応に関しては最近の世論調査(エマーソン大学による最新調査やAP通信とシカゴ大学の調査機関NORCによる調査など)で評価を高め、各国の首脳からも称賛された。とはいえ、これらの外交面の取り組みは彼の全体的な支持率の改善にはほとんど寄与していない。理由はいくつかある。
第一に、米国人の間では現在、インフレをめぐる懸念がほかの問題を圧倒している。中東での合意がまとまりつつあった時期に実施されたハーバード大学米国政治研究センター(CAPS)と調査会社ハリスの調査では、「個人的に最も重要な問題」として外交問題を挙げた有権者は1%しかいなかった。それに対して「インフレ・経済的な負担感」を挙げた人は43%にのぼった。インフレへの対応で進展がみられないことが、トランプの最大の弱点になっている。
第二に、トランプに関してはほとんどの事柄で根深い党派対立が存在し、支持率の大幅な改善を制約している。ハーバード大とハリスの調査では、中東和平案に関しても、ほとんどの側面で民主党支持者と共和党支持者の意見は大きく割れている。和平案については、主要なアラブ諸国政府がすべて支持していると回答者に伝えた場合に限り、民主党支持者(56%)、共和党支持者(87%)、無党派層(67%)の超党派の支持を集めた。
第三に、米国人は長年、国外の友人および敵との対話を重視してきた一方で、対話と永続的な変化の達成は別物だということも理解している。たとえば調査会社ギャラップは1997年以降、中東情勢について米国人に24回質問しているが、うち大半で「イスラエルとアラブ諸国が相違点を解決し、平和に共存できる」時が来ると答えた米国人よりも、そうできないと答えた米国人のほうが多いという結果になっている。
しかし、第四の理由がある。米国人は長らく、自国が世界で果たす役割について相反する感情を抱いてきた。米国人は、米国は大国である以上、世界で一定の役割を果たさなければならないとは認識しており、世論はいまもなお国際問題への関与のほうに傾いている。だが同時に、米国人はその関与にほぼ常に消極的であり、国内問題への関心のほうが強い。



