テクノロジー

2025.11.03 12:00

手のひらに100万量子ビット、より小さく、より速い量子コンピューターの実現

Bartlomiej Wroblewski

しかし、時間の大きな無駄であるだけでなく、空間の大きな無駄でもある。各イオントラップには、レーザー、電極、制御システムがそれぞれ備わっていることが多い。

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「QPUのサイズは大幅に増大します。というのも、QPUのサイズを決める長さのスケールが、量子ビット同士を近づけられる距離(数マイクロメートル)ではなく、トラップ自体のサイズになってしまうからです。トラップは場合によっては千倍も大きくなり得ます」とデイビッドは述べる。

もちろん、量子計算を小さくするという話自体には、やや皮肉な面がある。量子コンピューターの中核、すなわち量子性を生む部分は、言うまでもなく非常に小さい「量子ビット」だ。超伝導回路、光子、トポロジカル量子ビット、トラップドイオンなど、量子ビットには複数の種類があるが、いずれも極小だ。ミクロ未満、すなわちマイクロメートルスケール(100万分の1メートル)である。たとえば、トラップドイオンの量子ビットは人間の髪の毛の10〜20分の1の幅しかない。

しかし、量子ビットを生成・維持・操作・読み出すための複雑な機構は巨大になり得る。1950〜60年代の部屋いっぱいのメインフレームのようなものだ。たとえばIBMのQuantum System Twoは、約22フィート四方で高さ12フィート(約2平方メートルで高さ約3.7メートル)である。ほかの量子コンピューターも冷蔵庫ほど、あるいはそれ以上の大きさになる。個々の量子ビットは極小でも、それらのイオンをトラップして操作するための真空チャンバー、極低温シールド、光学定盤のような装置は、部屋のかなりのスペースを占め得る。

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これに比べ、Quantum Artは、100万量子ビットの量子コンピューター全体を、一般的な19インチのサーバーラック4〜5本に収める計画だ。極低温機器、レーザー、電子回路……量子コンピューターのすべてを、データセンターのごく普通の機器と同じように収まる形で実装する、とタル・デイビッドはいう。

Quantum Artが量子計算を高速化するもう2つの方法は、多量子ビット・ゲートとイオン鎖の光学的セグメンテーションである。多量子ビット・ゲートにより、同社は特別に設計したレーザーパルスを用いて、単一ステップで約1000回分の2量子ビット操作に相当する処理を実行できる。これにより、逐次的に必要な操作回数が大幅に減り、各コア内でより多くの並列計算が可能になる。副次的な利点として、誤りの蓄積が少なくなる。

「ギターを1音ずつ弾くのではなく、和音で弾くのです」とデイビッドは説明する。「同時に非常に多くの操作を行うので時間が大幅に節約でき、エラーも減る……設計はやや難しいのですが、私たちはそれを実現する方法を見つけていてます、これは私たちにとって特別なものです」。

イオン鎖の光学的セグメンテーションは、レーザーで定義した障壁を用いて単一のイオン鎖を複数の独立したコアに分割するものだ。いわば光ピンセットによりコアを区切り、制御する。これにより、複数のコアにまたがって多数の操作を同時に実行でき、単一のレジスタしか動かせないときに生じるボトルネックを回避できる。結果として、計算密度が高まり、並列実行が向上する。

総じて、Quantum Artは競合他社に比べて100倍の並列操作と100倍の毎秒ゲート数を実現しつつ、設置面積を最大50分の1にできる、と同社は述べる。

とても印象的だ。

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翻訳=酒匂寛

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