生成AIが登場し衝撃的なほど美しい画像が生成され、驚きと熱狂が始まった当初、アナリストたちはAdobeを「売り」推奨に格下げした。美しい写真のような画像を生成するMidjourneyなど生成AI新興勢力がクリエイティブ制作の入口を支配し、高価格帯のサブスクリプションモデルを主力とするAdobeのビジネスモデルは時代遅れになるように見えたからだ。
しかしAdobeがロサンゼルスで開催したAdobe MAX 2025で発表した一連の製品やサービスを見る限り、生成AI時代になっても“Adobeのツール”でクリエイティブする時代は続くようだ。
しかも、かつてはプロフェッショナルのクリエイターが主な対象だったが、彼らの顧客はもっとカジュアルに画像、動画、音声などを作る一般の利用者にとっても最適なパートナーになろうとしている。
彼らが発表したAI関連の各種製品、サービスは個々のクリエイティブ制作はもちろん、企業などの組織が“クリエイティブ”を中心にブランディングやサービス、商品の開発を行う上で欠かせないものになりそうだ。
ウォール街はなぜ「Adobeを売れ」と評価したのか
2024年3月、ウェルズ・ファーゴはAdobe株のレーティングを「売り」に格下げした。理由は明快だった。
「Midjourneyなどの生成AIツールが、コンテンツ制作の企画・制作プロセスの最初期にあたる「発想・構想」のフェーズを支配しつつある。次にAdobeは編集・ワークフローのフェーズでの支配を失うだろう」
Adobe株はその日、急落した。
Midjourneyなど生成AIサービスの有料会員は急増。月額10ドルから30ドルのサブスクリプションは、特別な知識や作業なく成果物を得られた。すぐには変化しなくとも、PhotoshopやIllustratorが何年もかけて提供してきた画像制作への入り口は、Adobeから“それ以外”に向かうように“思えた”からだ。
OpenAIのSoraは動画生成に加えて編集機能も持ち、RunwayやPikaも動画編集ツールを使いこなさなくともテキストから驚異的な動画を生成でき、ElevenLabsは、音声の領域で同様の革命を仕掛けていた。
生成AIを機能面では取り込んでいるとはいえ、Adobeの代表的な製品であるCreative Cloudの高価なサブスクリプションはライトユーザー層から順に見放されると見られていた。業界に違いはあれど、コダックやブラックベリーのように市場環境の変化に追従できずに沈む巨人というレッテルである。
Adobeが自社の生成AIであるFireflyをリリースした際も、初期段階では「Adobeも生成AIを持っている」という防衛的な動きにしか見えなかった。Fireflyの画像は、確かに商用利用可能で、著作権的にクリーンだという利点があったが、生成AIの進化は激しい。
毎月、新しいモデルがリリースされ、前世代を陳腐化させる。AIの挑戦者たちは瞬間的な驚きを繰り返し提供することで注目を集めた一方、Adobeの動きは鈍く見えた。



