Photoshop、Illustrator、Premiere Pro、Lightroomといった成熟したクリエイティブツールを通じて数億人のクリエイターとの接点を持つAdobeが、それらツールに加えてAdobe ExpressやFireflyに統合するのであれば、AIモデルを開発する新興企業がそのプラットフォームに加わるのは合理的だ。
「Adobeの時代が終わった」と判断していたアナリストたちは、“生成AI”というテクノロジトレンドだけを見ていた。しかし市場を形成するのは人間であるユーザーだ。そして、クリエイティブツールを使いこなす人たちが集まる場に、もっとも近い位置にいるのがAdobeというわけだ。
Adobeが目論む“生成クレジット”経済圏
ところで“ユーザーが集まる場”としてAdobeの制作基盤がある一方、人が集まればそこには自然に経済圏が生まれる。Adobeはこの側面でも合理的な仕組みを用意した。
生成AIの活用には大きな演算力が必要であり、そのためには少なくないコストが必要だ。
Adobeの生成AIプラットフォームでは、他社を含む多様なAIモデルを“Adobeの生成クレジット”で透過的に利用できる。
利用するAIモデルそれぞれに契約を持つ必要はなく、Adobe IDに紐づけられる生成クレジットという“共通通貨”を用いて利用できれば、生成AIの活用は間違いなく加速するはずだ。
なお、こうした異なるAIモデルをまたいで自由に生成AIを活用する自由を体験できるよう、Adobeは2025年12月1日までの期間限定で、Creative CloudユーザーとFirefly利用者を対象に、すべてのFireflyモデルとパートナーモデルによる画像生成、Adobe Stockの透かし入り画像の生成、そしてFirefly Video Modelによる動画生成を無制限で提供する。
新しいFireflyでは、より複雑な制作物を作るための機能がいくつも搭載されている。
Firefly Boardは、チームでのブレインストーミングやムードボード作成のための共同作業ツールだ。読み込んだ画像や生成した画像をボード上に並べ、それらを組み合わせて新しいバリエーションを生成させ、またボード上に多様なシーンを生成した後に、組み合わせて動画を作り、また動画の雰囲気やシーンチェンジに合わせてBGMを生成する。さらには、いくつかの動画シーンを並べ、間を繋ぐ画像や場面切り替えを生成することもできる。
どの場面で、どのAIモデルを使うとしても、コストとして必要になるのは“Adobeの生成クレジット”のみ。
生成AIにとって避けて通れない“演算コストの負担”は避けられないが、かといってすべての必要なAIモデルをサブスクすることはできない。Adobeの戦略は、有料でしか提供できないレベルの生成AIを使ったクリエイティブを加速させるだろう。


