経済・社会

2025.10.31 16:30

専門家が語る「習近平がトランプを出し抜いた」理由

写真:Andrew Harnik/Getty Images

写真:Andrew Harnik/Getty Images

ドナルド・トランプ米大統領は日本時間10月30日、中国の習近平国家主席との会談で、関税の引き下げを含む複数の具体的な譲歩に同意したが、北京側の提示は曖昧かつ暫定的に見える。このため専門家は、習がトランプの貿易戦争を中国に有利な形で巧みに操ったと結論づけた。

中国商務省によると、米国は中国からのフェンタニル流入を理由に科していた懲罰的関税を10%引き下げ、米国時間11月1日に開始予定だった新たな100%関税の脅しを撤回し、相互関税の停止をさらに1年間延長することに合意した。いずれもトランプの対中貿易戦争の顕著な緊張緩和である。

一方の中国は、トランプの関税への対抗として導入したレアアース(希土類)輸出規制の停止を1年間延長することに同意した。ただしトランプは、この取り決めは1年後に再交渉が必要になると認めた。

レアアース支配を梃子に、中国はトランプ政権に対し「モグラ叩き」のゲームを巧みに仕掛けることに成功したと、ブルッキングス研究所のフェロー、ジョナサン・チジンがニューヨーク・タイムズに語った。

ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ニコラス・クリストフは、会談の結果は「表面上は貿易戦争前の現状に戻ったように見える」かもしれないが、「実際には、われわれが始めた衝突ののちに降伏し、より弱い立場に置かれたようなものだ」と書き、トランプの関税が「中国にレアアース支配を武器化させた」と指摘した。

コンサルティング会社トリヴィウム・チャイナの地政学アナリスト、ジョー・マズールはロイターに対し、トランプ政権の対中交渉は、中国の「先に手を出さず、必ずやり返す」という戦略を「ほぼ完全に正当化した」ものであり、レアアースの支配は「米国に同等のカードがない」状況での「中国の切り札」だと述べた。

他の専門家は、この会談により当面の衝突再燃は避けられたとしつつも、「突破口というより猶予にすぎない」と評価した。民主主義防衛財団(Foundation for Defense of Democracies:FDD)の中国担当上級フェロー、クレイグ・シングルトンはポリティコにそう語り、エコノミスト誌はこの会談を「壮大な取引というより場当たり的な駆け引き」と評した。

トランプは会談を「驚くべきもの」と称し、1から10の尺度で「12」だと述べたが、中国政府の発表の口調はより慎重だった。発表は「両チームは平等・相互尊重・互恵の精神で協議を継続し、問題のリストを短くし、協力のリストを長くし続けることができる」としている。

中国政府が米国に示した提案の詳細は流動的だ。そこには、中国による大豆、石油・ガスの購入拡大、TikTok売却の承認、ロシア産原油の購入削減、米国企業から中国への半導体チップ販売の制限などが含まれる。トランプはチップ販売について記者団に「それは本当にあなた方とエヌビディア次第だが、われわれは一種の仲裁者のようなものだ」と述べた。さらにTruth Socialで、中国が大豆を「大量に」購入し、アラスカ産の石油・ガスについて「非常に大規模な」購入があり得ると述べた。中国側は「農産物貿易の拡大」に合意し、TikTokに関する問題を「適切に解決する」ことにも合意したと発表した。トランプはまた、ウラジーミル・プーチン露大統領に戦争終結を迫るために中国にロシア産原油の購入削減を求めていた件についても、会談後に「彼らができることは多くない……彼らは長い間ロシアから石油を買ってきた。それは中国の大きな部分を賄っている」と述べ、姿勢を和らげた。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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