サイエンス

2025.10.31 12:00

欧米の夏時間制度は「健康に悪い」 科学者が警告

Serenity Images23/Shutterstock

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欧米で一般的に導入されている夏時間制度は廃止すべきだろうか? 北米では今週末で夏時間が終了し、時計を1時間戻す「冬時間」に切り替わる時期が近づいている。同地域では、2025年11月2日の現地時間午前2時に時計が1時間戻され、午前1時となる。

これにより、人々は1時間「得をする」ことになり、最も大きな影響として、今週の日曜日は1時間長く眠ることができる。冬時間に切り替わると日の出と日の入りが1時間ずつ早まり、朝が明るくなる代わりに、夕方は暗くなるのが早くなる。夜勤に従事する人々やペットの飼い主は、この調整に多少苦労するかもしれない。だが、米スタンフォード大学医学部が行った研究によると、年に2回の時間の切り替えは、すべての人にとって健康に悪影響を及ぼすという。

夏時間とは

夏時間とは4~10月までの期間で、11~3月に適用される冬時間は「標準時」として知られている。夏時間への切り替えにより、夏の夕方の日照時間が長くなるという利点がある。

北米では、夏時間は3月の第2日曜日(午前2時に時計を1時間進める)に始まり、11月の第1日曜日(午前2時に時計を1時間戻す)に終了する(訳注:欧州では、夏時間は3月の最終日曜日に始まり、10月の最終日曜日に終了する)。米国では、アリゾナ州(ナバホ族居留地を除く)とハワイ州のほか、米領サモア、グアム、北マリアナ諸島、プエルトリコ、米領バージン諸島では、夏時間は適用されない。

夏時間は健康に悪い?

9月に米科学アカデミー紀要に掲載された論文によると、標準時を恒常的に採用すれば年間約30万件の脳卒中を予防でき、肥満人口を約260万人減少させられると推定されている。一方、夏時間を恒常的に導入した場合でも、同様の効果を約3分の2達成できるという。

だが、健康に最も悪い影響を及ぼすのは、標準時と夏時間の年2回の切り替えだ。論文の筆頭著者であるスタンフォード大学医学部のジェイミー・ザイツァー教授は「標準時か夏時間のいずれかを維持する方が、年に2回切り替えるより明らかに健康に良いことが分かった」と述べた。

米睡眠財団によると、毎年3月の夏時間への切り替えは生活リズムを乱し、心臓疾患や気分障害、自動車事故の増加を引き起こす可能性がある。人間の概日リズムは24時間周期で、自然光に当たることによって調節される。

標準時と夏時間

米世論調査会社ギャラップが今年実施した調査によると、米国人の72%が時間の切り替えを望んでおらず、48%が恒常的な標準時を、24%が恒常的な夏時間を希望していた。年2回の時間の切り替えを行う現行の制度を維持したいと考えていた人はわずか19%にとどまった。

恒常的な夏時間制を支持する人々の主張

恒常的な夏時間制の導入を支持する人々は、夕方に明るい時間が増すことで、電気代の節約や犯罪の減少、仕事後の余暇時間の増加につながると主張している。だが、子どもたちは朝暗いうちに通学しなければならない。

恒常的な標準時制を支持する人々の主張

恒常的な標準時の採用を支持する人々は、朝に明るい時間が増す方が健康に良いと考えている。標準時とは、天文学的な意味でも標準的な時間だ。太陽の位置により近く一致し、太陽正午が午後0時により近づく。

議論は決着したのか?

朝に光を浴びると、概日リズムが促進される。ザイツァー教授は「夕方に明るい時間が増えると、物事の進みが遅くなる」と指摘。「24時間周期を維持するには、一般的に朝の光を多く浴び、夕方の光を少なくする必要がある」と説明した。研究者らは、1年を通じて朝の光を優先する恒常的な標準時下では概日リズムへの負担が軽減されることを発見した。

結局、議論は決着したのだろうか? いや、なぜならこの研究は、人々が安定した睡眠習慣を持ち、出勤前後に屋外で時間を過ごし、午前9時から午後5時までは屋内で光にさらされていると仮定していたからだ。残念ながら、現実は恐らく大きく異なるだろう。ザイツァー教授は次のように述べた。「人々の照明使用習慣は、モデルで想定しているよりはるかに悪いと思われる。米カリフォルニア州のように天候に恵まれた場所でも、人々が屋外で過ごすのは1日のうち5%未満だ」

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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