「成功する人には才能がある」「失敗するのは意志が弱いから」――。
こんな話を見聞きしたことはないだろうか。しかし、人の能力は個人の資質や意志だけでは決まらない。組織心理学者ベンジャミン・ハーディが歴史学と心理学の知見から「環境が人を作る」メカニズムを科学的に解明した全米ベストセラーの邦訳版『全力化』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。
科学が存在を認めた「場所」の効果
歴史家のウィリアム・デュラントは、40年にわたって世界の歴史を研究し、その成果を11巻の傑作『The Story of Civilization』(『文明の物語』、未邦訳)に記録した。
ここにはなんと、人類が生まれて以来の歴史がすべて網羅されている。
デュラントは、人類史を決定づけるようなすばらしい瞬間を取り上げただけでなく、世界でもっとも偉大かつ影響力を持った人たちについても研究した。
膨大な年月をかけて研究し、慎重に資料を読み込んだ結果、デュラントは驚くような結論に至る。
歴史とは、偉人たちによって作られるものではない。歴史とは、誰かが現れて自分の型を押して残していく粘土のようなものではない、と。
実は歴史とは、「偉大な人物」によって作られるものではなく、「困難な状況」によって作られる──これがデュラントの結論だった。
すばらしい何かを作るもっとも重要な材料はたったひとつ、「必然性」だとデュラントは発見した。特定の誰かの才能や、ひとりの指導者のビジョンではないのだ。
多くの人にとって、これは耳が痛い話だ。
というのも、“社会”として私たちは個人に執着し、その人物を作ってきたバックグラウンドを無視しがちだからだ。
すばらしいことや不可能なことを成し遂げた人物を取り上げた映画では、その人のカリスマ性や才能が強調される。私たちは、英雄神話の普遍的なパターンである「ヒーローズジャーニー」を信じているのだ。


