複数の作業を同時に進められず、話題が切り替わるたびに頭が真っ白になる。しばしば「能力不足」と捉えられてしまうが、発達障害の特性を持つ人が抱える悩みの一つだ。
ただ、マルチタスクができないことは、必ずしも弱みではなく、武器に変えることもできる。障害者の社会復帰を支援し、YouTubeチャンネル「発達障害しごとラボ」を運営する柏本知成さんの著書『ポストが怖くて開けられない! 発達障害の人のための「先延ばし」解決ブック』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。
※登場する人物の名前はすべて仮名です。個人情報保護のため、一部の属性や状況についても変更しています。
たったひとつの行動に専念するすごい効果
月曜日の朝。就労移行支援プログラムに参加するASDの三浦カナエさん(20代女性)は、訓練室の一角で肩を落としていました。
彼女が取り組んでいたのは、コミュニケーション特化型カリキュラムのひとつ「ペア・インタビュー」。
このワークでは、二人一組になり、相手の経験談を3分間じっくりと聞き取ります。そして要点を15秒でまとめて、相手に返します。
この流れを、3セット連続で行います。
周囲の利用者がテンポよく交代する中、カナエさんは話題が切り替わるたびに頭が真っ白になり、まとめの言葉が出てこなくなってしまったのです。
困惑するカナエさんに、こう伝えてみました。
「今日は、要点まとめは置いておきましょう。まずは“聞き取りだけ”に集中してみませんか?」
白いカードに、「聞き取り3分」と大きく書き、彼女の手に渡しました。



