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2025.11.01 11:30

現場監督のAIエージェントが建設業を救う、Physical AIの勝機

内丸拓|Z Venture Capital(写真左)・野﨑大幹|Zen Intelligence(同右)

内丸拓|Z Venture Capital(写真左)・野﨑大幹|Zen Intelligence(同右)

野﨑大幹は2020年7月、Zen Intelligenceを創業した。同社は、3Dコンピュータ・ビジョン技術を用いた建設業向けのAI SaaS「zenshot」を開発・提供。作業員がカメラをもって建設現場を歩くだけで、画像処理AIが360度ビューを自動で作成してくれるサービスで、これまで100社以上が導入。現場監督が遠隔地から現場全体の状況を可視化・共有することができ、施工管理業務の効率化に寄与する。25年8月には、新たに「Physical AIで、基幹産業を変革する。」というパーパスを策定。建設現場の施工管理を自動化するための基盤モデルの開発に注力している。

同社が総額15億円の資金を調達した25年9月のシリーズAラウンドに、Z Venture Capitalはリード投資家として参画した。同VC Principalの内丸拓が出資した理由とは。


内丸:Physical(物理的な)AIは最近、ベンチャー投資界隈で急速に注目されるようになったキーワードですが、私はもともと投資テーマに据えていて、良い投資先はないか探していました。なぜなら近年、AIが急速に普及する一方で、建設業界などのエッセンシャルワーカーが働く領域は、人手不足が深刻な状況が続いていて、AIによる恩恵をほとんど受けていない からです。その意味で、Zen Intelligenceはピッタリとハマった会社でした。しかも、野﨑さんは優れたビジネス感覚と技術への深い理解を併せもっていました。

野﨑:「AIスタートアップ」を標榜する会社は最近、すごく増えてきましたよね。我々は既存のサービスにAIを組み込んでいるのではなく、基盤モデルを自ら開発するなど、プロダクトの中核にAIを据えている技術タイプの会社です。特にPhysical AIは、ここ数年で一気に盛り上がってきたLLM(大規模言語モデル)を単純に応用できるものではなく、物理世界のリアルデータを積み上げていく必要があります。内丸さんとは、こうしたAIのとらえ方についてシンパシーを感じました。 

内丸:基盤モデルを研究開発するにはそれなりの資金が必要ですし、その成果が必ず売り上げにつながるとも限りません。その意味で、建設現場の空間データを集めてデジタルツインを構築できる「zenshot」をすでに提供し、多数の顧客を得ていることも大きなポイントでした。

野﨑:この20年ほどで、製造業の生産性は大きく上がってきたのですが、建設業はいまだ生産性が低い状況が続いていて、現場監督や作業員の人手不足で案件が受けられず、着工ができないというケースも起きています。製造業ではIoTを導入して、データを活用した生産性の向上が図られていますが、建設業はそもそも現場のデータ自体を取れておらず、それゆえにうまくPDCAを回すことができていません。創業当初、僕たちはロボットを使って現場作業の生産性を上げていこうとしたのですが、まずは現場にいる誰もが簡単にデータが取れるようにすることが重要だと気づいて方針転換し、zenshotを開発したという経緯があります。今になって、建設現場のリアルデータを蓄積してきたことが、ほかのAIスタートアップにはない当社独自の強みになってきていると感じますね。

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文=眞鍋 武 写真=平岩 享

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私がこの起業家に投資した理由

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