イノベーションとリーダーシップは、切っても切り離せない関係にある。適切な問いを投げかけ、新しいテクノロジーを取り入れることで、刺激的で力強い変化が生まれる。
しかし一部の業界では、こうした先見性は必ずしも発揮されない。それどころか、周囲の世界がすべて変わっていくなかでも、イノベーションや変化に対して明らかに消極的な業界は少なくない。
変化を拒む業界においては特に、真のリーダーシップとはイノベーションを取り入れることを意味する。変化を強制されるまで抵抗を続けるのではなく、変化を積極的に促すリーダーこそが、組織を持続的な成功へと導く。
イノベーションのパラドックス
認めたくない真実だが、業界というものは、変化が何より重要な時にこそ、変化に抵抗する。レンタルビデオチェーンのBlockbuster(ブロックバスター)は2000年、ネットフリックスを5000万ドル(現在のレートで約76億円)で買収する話を断わったことで知られている。物理的なレンタル事業の競争優位性は揺るぎない、と確信していたからだ。
現在、ネットフリックスの時価総額は2500億ドル(約37兆9750億円)を超える一方、ブロックバスターはビジネススクールで反面教師の教材となっている(2010年に経営破綻)。
一方、サティア・ナデラが2014年にマイクロソフトのCEOを引き継いだ時、同社は衰えゆく巨人とみなされていた。「Windows」や「Office」に注力しすぎて、クラウドファーストの世界で生き残れないと考えられていたのだ。しかしナデラは、レガシープロダクトを守る代わりに、マイクロソフトをクラウドコンピューティングとオープンソースコラボレーションの企業に転換させた。同氏のリーダーシップの下で、マイクロソフトは現在、時価総額を10倍以上に増やしている。主なけん引役は、クラウドプラットフォーム「Azure」とAIへの投資だ。
ナデラが理解していたことを、より多くのリーダーが学ぶ必要がある。それは、イノベーションは単なる技術革新ではなく、マインドセットの問題ということだ。確信よりも好奇心を、伝統よりも機敏さを、見栄えの良い四半期業績よりも、長期的な価値を重視しなくてはならない。
多くの業界は、なぜ変化を拒むのか
変化への抵抗は、驚くことではない。それどころか、人間は生まれつき変化に抵抗する性質を有している。たとえ非効率的であったり、間違っていたりしても、自分の慣れたやり方を好む傾向があるのだ。企業が変化を拒むのは、現在の収益源が確かなものに感じられる一方で、将来のチャンスはリスクに思えるからだ。したがって、こうした姿勢がたやすく業界全体に及んだとしても不思議はない。
変化を拒む業界では、リーダーを筆頭としてこうした傾向が拡大し、組織文化全体に根を張る。失敗を恐れるリーダーはあまりに多い。彼らは、新たな戦略がもたらし得る成果よりも、導入に伴うリスクを懸念するのだ。
変化しないリーダーたちは往々にして、現状に満足し、レガシーテクノロジーを使い続ける。時代遅れの技術は、組織の機敏性を損ない、新たなイノベーションを柔軟に取り入れる姿勢を阻害するため、将来のイノベーションを妨げる重大な障壁となることが多い。
例えば米内国歳入庁(IRS)は、1959年に開発されたプログラミング言語COBOLを今なお使用しており、そのせいで、たびたび処理作業の遅れを引き起こしている。2020年にはシカゴ市警察が、報告書作成にコンピューターではなくタイプライターを使用していることが報じられた。



