なおも変化に抵抗する業界(および変化が必要な理由)
一部の業界は、規制や伝統、複雑さゆえに、長らく変化を拒んできた。しかし、もはや誰もが、変化を免れることはできない。
・医療:AIや、ウェアラブル端末による健康データの収集、医療のパーソナライズ化が進化しているにもかかわらず、多くの医療提供者は依然として、時代遅れのシステムやプロセスに頼っている。Mayo Clinic(メイヨー・クリニック)のような革新的な組織は、テクノロジーを活用した患者中心の医療が実現可能であることを証明している。
・教育:教育機関は、パンデミックに強いられるまでデジタル化に消極的だった。多くの機関が今も、AIチューターや適応型学習(adaptive learning)プラットフォーム、マイクロ・クレデンシャル(実用的なスキルを短期で習得するコース)の導入を拒み続けている。その一方で、Duolingo(デュオリンゴ)やCoursera(コーセラ)のような企業は、スキルの習得や応用の方法を再定義する存在となっている。
・金融:フィンテックが爆発的に成長するなか、古くからのシステムと文化を維持する伝統的な金融機関は苦戦している。これに対して、JPMorgan(JPモルガン)の「Kinexys」プラットフォーム(旧Onyx)のように、API駆動型モデルやブロックチェーンベースの効率性を取り入れている企業は、時代に合った立ち位置を確立しつつある。そうでない企業は取り残されるだろう。
改革の影響を受けずにすむ業界はない。抵抗はマイナスにしかならない。
イノベーションには人間が必要
PwCが2025年6月に発表した分析結果によると、AI利用が最も大きい業界は、従業員1人当たりの売上成長率が、最も利用が小さい業界と比べて3倍も大きかった。
賃金も、AI利用が最も大きい業界は、最も利用が小さい業界と比べて2倍のペースで上昇していた。これらの組織は、AIによるイノベーションと効率向上により、競合他社を大きく引き離す驚異的な成長を達成しているのだ。
しかし、ここでCEOが犯しがちな過ちの一つは、イノベーションを急ぐあまり、短期間にチームメンバーを手放してしまうアプローチを取ることだ。法律事務所Insurance Claim HQ(インシュアランス・クレームHQ)のパートナーであるゲイレン・M・ヘアーは、ホストを務めるポッドキャスト「Level-Up Claims」で次のように語っている。
「AIに全面的に飛びつき、『コンピューターが全てをこなすから従業員を全員解雇する』と言う人もいるが、それは間違いだ。仕事の人間的な要素を失い、優秀な人材も失うことになる。競合他社がすぐさま彼らを採用し、彼らは、競合他社のために2倍も熱心に働くことになるだろう。その一方で、『いやいや、AIは我々を丸ごと滅ぼそうとしているから使わない』と言う人もいる。競争的な環境で優位に立とうとしないなんて、私には理解できない。AIツールについては、仕事をより速く、より簡単に、より正確にこなすために取り入れるべきだが、人間性を犠牲にしてはいけない、ということだ」
先見の明のあるリーダーたちは、AI導入において慎重にバランスを取っている。自らの行動がもたらす可能性を、短期・長期の両面で考慮しているのだ。そうすることで、ビジネスにおける人間性を損なうことなくAIを活用し、価値を生み出す変化を実現できる。


