食&酒

2025.11.14 15:30

言語化・可視化で「食文化」を未来へつなぐ発信者たち

Shutterstock.com

Shutterstock.com

「食を通じて、いのちを考える」を掲げる大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「EARTH MART」と Forbes JAPANが連動し、食の未来を輝かせる25人を選出した。生産者、料理人、起業家、研究者……。本誌 11月号では、豊かな未来をつくる多様なプレイヤーを紹介する。


食文化の言語化と可視化で、地域の個性が際立つ未来へ

仲山今日子|ジャーナリスト

フェロー諸島からラテンアメリカまで、美食の新潮流を確かめるべく世界をわたり歩く。仲山今日子は、料理は“土地の美意識の表現”であると考えている。食を通じて、自然・風土や歴史、宗教観に根ざす地域のアイデンティティをかたちにし、発信と対話を設計することが、その地域の経済と住民の誇りを育てるからだ。

「日々口にする料理には、まるで種のように、私たちの祖先が歩んできた歴史のDNAが詰まっている」と仲山。食材の選び方や調理方法、そこには全て「理(ことわり)」があり、その土地の風土や歴史と深くつながっている。今ある料理は、先人の創意工夫と大勢の人の嗜好の選択を経て残ったもの。食は先人の叡智というDNAを未来につなぐ種であり、「毎日の食事は、未来への選択」と語る。

取材や発信のかたわら仲山が長期目線で取り組むのが日本の食文化を世界に残せるものにすること。スペインの名店「エル・ブジ」のフェラン・アドリアほか海外のシェフや研究者らと日本各地を訪ねては価値を可視化する作業を進めている。伝統作物の復権や担い手の育成、地域の活性化......料理の流行を消費で終わらせず、言葉とともに文化へ育てる。見据えるのは地域の個性が際立つ未来だ。


仲山今日子◎日本とシンガポールでテレビアナウンサー、キャスターを経て食の道へ。World Restaurant Awards審査員。料理誌で複数の連載をもつほか、ジャーナリストとして CNNやCHANNEL NEWS ASIAで美食について解説する。著書に『私は料理で生きていく』。

食文化の言語化と可視化で、地域の個性が際立つ未来へ

川崎寛也|味の素食品研究所 エグゼクティブスペシャリスト

料理がわかる科学者が取り組む「おいしさのデザイン」「食の未来は、嗜好×栄養×健康の循環を起点に、科学と職人技を統合して"おいしさをデザインする”ことにあります」。“料理がわかる科学者”を自認する川崎寛也は、おいしさとは、温度や状態変化だけでは語れず、個々の嗜好を読み解き、最適解を提供する割烹的発想が鍵になると持論を展開する。最近はコース提供が多いが、本来割烹とは、主人が客の好みにあわせて料理を提供するスタイルを目指す。

科学だけでおいしいものはできないが、科学的思考の原則を調理の研究に応用し、判明したメカニズムを製品開発などに還元することはできる。例えば「出汁」は科学的にみれば、乾物に蓄えられた複合反応を抽出する知恵で、そこに含まれるうま味成分がタンパク質摂取のシグナルとして人を満足させる、といった具合だ。

未来に求められるのは、食文化の文脈と個の状態に応じて味を編むデザインサイエンス。科学をツールとして活用しながらリテラシーを育み、特に和食の哲学やコンセプト、調理技術を世界へ翻訳することが次の挑戦だ。「器や雰囲気を読み解く受け手の教養をどう育むかも課題ですね。そのリテラシーがあるかないかで体験価値が50にも100にもなる」。科学と経験の両輪で食の未来を切り開こうとしている。


川崎寛也◎1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了、博士(農学)。味の素食品研究所エグゼクティブスペシャリスト。NPO法人日本料理アカデミー理事。著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』など。

文=青山鼓

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事