トランプ大統領はすでに海外で数億ドル(数百億円)規模を稼いでいるが、その大半はアラブ首長国連邦(UAE)から生まれている。そして彼にとって最も儲かる海外取引が、まさにこれから始まろうとしている。
米国では大統領が利益相反回避のため資産をブラインド・トラスト(信託)に入れるのが通例だが、トランプは採らなかった。トランプ家の中核事業グループ「トランプ・オーガニゼーション」は、海外ライセンスや運営受託の窓口として機能し、UAE関連の契約と収益をこの組織経由で処理している。UAE関連の契約は少なくとも9件に拡大しており、関連収益は2025年に推定5億ドル(約760億円)に達する。以後は年5000万ドル(約76億円)規模が続く見通しだ。
また、アブダビでは未発表の不動産開発が進む。提出書類はアル・ラハ・ビーチが候補地であることを示す。仕様や規模、事業主体は未開示だ。この計画はエリック・トランプの不動産トークン化構想と接続する余地がある。そこには、ステーブルコインなどの暗号資産を組み合わせ、資金調達を多様化する狙いが見えてくる。トランプ家にとって最も儲かる海外取引は、このアブダビ新開発に暗号資産を重ねる構図へ収れんしつつある。
トランプが「海外取引せず」の誓いを破り、UAEが最大の収益源に
2017年1月11日──1期目の大統領に就任する9日前、ドナルド・トランプは、自身の数十億ドル(数千億円)規模のビジネスをホワイトハウス在任中にどう扱うかを発表した。彼は資産を売却しないと明言し、子どもたちに譲ることも、ブラインド・トラストを設けることも、独立した経営者に権限を委ねることもしなかった。だが1つだけ越えないと誓った一線が、「新たな海外取引は行わない」というものだ。「週末にドバイで複数の取引を持ちかけられ、20億ドル(約3040億円。1ドル=152円換算)を提示されたが断った」と、就任式を控えたトランプは、トランプタワーの記者会見で語っていた。
それから8年が経った現在、ドバイとアブダビを含むアラブ首長国連邦(UAE)は、トランプ・オーガニゼーションの国際展開の拠点となった。長男のトランプ・ジュニアと次男のエリックが特使として動いた結果、トランプ家はこれまでに少なくとも9件、UAEに関わる契約を結んでいる。その中には政府系機関が関与するものもあり、多くは同国で築いたビジネス関係に端を発している。5件のライセンス契約と3件の暗号資産関連の取引を含むこれらの事業は、2025年だけで推定5億ドル(約760億円)、以後も毎年約5000万ドル(約76億円)の収益をもたらす見通しだ。
アブダビで未発表の新プロジェクト
新たな案件も控えている。トランプ家は現在、アブダビで未発表の新プロジェクトを進めているが、これはアル・ラハ・ビーチ地区のものである可能性が最近の提出書類で示されている。興味深いのは、トランプの子どもたちが、暗号資産ブームを利用して不動産から新たな収益を生み出そうとしていることだ。
トランプ・オーガニゼーションの実務を統括するエリック・トランプは、この国を称賛してやまない。「UAEは開発業者にとって夢のような国だ。彼らは何に対しても“ノー”と言わない」と、昨年アブダビで開かれた会合で語っていた。「彼らは、むしろ常に『もっと限界に挑戦してみろ』と言ってくる。これほど成長が速く、仕事をするのが楽しい場所はない。建てたいと思えば建てられる。夢に見たことを、彼らは実現させてくれる」。
少なくともトランプ家にとっては、その言葉は真実だ。湾岸地域の外交に詳しい元外交官はこう語る。「湾岸諸国の指導者たちは、このアメリカ大統領との付き合い方をよく心得ている。前回の任期中に学んだが、当時は露骨に金を求める行為には一定の制約があった。だが現在は、彼を縛るものは何もない」。
20年前の中東初進出、ドバイでの契約は失敗に終わる
アメリカで最も有名な不動産一家は、今から約20年前に初めて中東に進出した。最初の進出先は、言うまでもなくUAEだった。当時ドバイは、異常なほどの開発ブームの真っただ中にあり、ダウンタウン沖の海上に世界地図やヤシの木をかたどった人工島の建設を進めていた。これらプロジェクトを売り込むため、政府系企業ナキールは2004年、ニューヨークの高級レストラン「21クラブ」で75人の投資家を招いた昼食会を開き、ドナルド・トランプもその席にいた。
「海を埋め立ててるんだ、驚くべきことだ!」と彼は感嘆したという。2008年までにトランプはナキールとライセンス契約を結んだが、同社を率いていたのは、米国でジェフリー・エプスタインとも関係のあった実業家スルタン・アハメド・ビン・スライエムだった。
パームツリー型の人工島に建つ予定だった「トランプ・インターナショナル・ホテル&タワー」は、当時の計画では同島で最も高い建物となるはずだった。延べ床面積が約4600平方メートルの商業施設や378室のホテル、399戸のレジデンスを備え、トランプ自身もそのうち1戸を購入予定だと語っていた。販売開始は2008年6月だったが、それは最悪のタイミングだった。世界金融危機がドバイの不動産市場を直撃し、2011年にはトランプのパートナー企業が契約を打ち切ったと伝えられた。
しかし同じ2011年、開発業者フセイン・サジュワニがドバイ郊外で約390万平方メートルに及ぶプロジェクト「ダマック・ヒルズ」に着手した。彼の部下の1人、ジアド・エル・シャールがトランプ家と接触し、ゴルフクラブのライセンス契約をまとめた。2014年5月に彼は、トランプをアル・マクトゥーム国際空港で出迎えた。トランプの専用機を受け入れられるのはこの空港だけだった。車内でトランプは中東における米国の政策について尋ね、その様子を見たエル・シャールは、トランプが政治的野心を抱いているのではないかと感じていた。
その予感は的中した。約2年半後、トランプは第45代アメリカ大統領に就任した。エル・シャールの上司サジュワニはその日をワシントンD.C.のトランプ・インターナショナル・ホテルで祝った。翌月には、トランプ・ジュニアとエリックがドバイを訪れ、「トランプ・インターナショナル・ゴルフクラブ」の公式開業式に出席した。
しかし、新たな海外取引を封印したことで、トランプのライセンス事業は大統領任期中に次第に沈静化していった。任期終了の2週間前の2021年1月6日に起きた連邦議会議事堂襲撃事件も、彼のブランドを再び勢いづけることはなかった。



