政治とビジネスの融合、深まるUAEとの関係
こうした混沌した状況こそが、現在の「トランプ時代」の特徴だ。不動産ライセンス、外交、ミーム株取引が一体化し、取引の連鎖が複雑に絡み合う。その中心で、トランプ家は数十億ドル(数千億円)規模の富を築きつつある。これら取引は、明示的な見返りを前提としたものではなく、ビジネス上の関係が個人的関係へと発展し、それが政策判断に影響を及ぼすというものだ。そして、これこそが長年、湾岸諸国で行われてきたやり方だ。違うのは、今やアメリカ大統領自身がそのネットワークの中心にいるという点だ。
「これは、湾岸諸国の政府が日常的に行っている取引上の関係構築の一種だ」と、同地域に詳しい元外交官は言う。「彼らが特別に腐敗しているというわけではない。だが、どんな状況でもワシントンの“正しい側”にいなければならない。それが現在のワシントンの現実であり、湾岸諸国はそのために金を出して関係をつなぐのだ」。
特使ウィトコフと共同設立した暗号資産企業、UAEから謎の資金が流入
UAEは、米国から多くのものを求めている。高性能AIチップ、軍事協力、外交交渉の場での発言権だ。こうした要望に応えられる立場にいる人物の1人が、スティーブ・ウィトコフだ。彼はトランプの不動産仲間であり、現在は「大統領のなんでも特使」と呼ばれてもいる。ウィトコフは選挙直前にトランプと組み、ワールド・リバティ・フィナンシャルという暗号資産企業を共同設立した。トランプの勝利後、この会社には数十億ドル(数千億円)が流れ込み、その多くがUAEからの資金だった。
4月には、DWFラボと呼ばれる高頻度取引会社が本社をUAEに移転すると発表した直後、2500万ドル(約38億円)分のトークンを購入したと明かした。また、ほぼ同時期に設立されたとみられるAqua1 Foundationという謎めいた組織も、6月に追加で1億ドル(約152億円)分を購入したと発表した。Aqua1の資金源はいまだ不明だが、同財団が後に発表したリリースでは「アブダビ政府の経済政策に沿った活動だ」と強調されていた。これらDWFとAqua1の取引により、トランプ家には推定9400万ドル(約143億円)、ウィトコフ親子には1600万ドル(約24億円)が流れたとみられている。
アブダビ政府系MGX、トランプ系のコインを使い約3040億円投資
両家の子息──エリック・トランプとザック・ウィトコフは5月、ドバイで開かれた暗号資産カンファレンスに登壇した。クリーム色のワイドラペルのスーツ姿で現れたウィトコフは、アブダビの副統治者が議長を務める企業MGXが、ワールド・リバティのステーブルコインを使って暗号資産取引所バイナンスに20億ドル(約3040億円)を投資する計画を明らかにした。このステーブルコインを使うという決定は事実上、ワールド・リバティに数十億ドル(数千億円規模)規模の預け入れを保証するものであり、同社はその運用益として年間約8000万ドル(約122億円)を得られる計算になる。結果として、トランプ家のステーブルコイン事業の価値は推定6億9000万ドル(約1049億円)押し上げられる見通しだ。
10月23日、トランプはバイナンスの創業者でビリオネアのチャンポン・ジャオに恩赦を与えた。この件に自身のビジネス上の利害が関係しているのかと問われると、トランプは「多くの人が、彼は何も悪いことをしていないと言っている」と答えた。だが実際には、ジャオ本人が2023年にマネーロンダリング対策プログラムの不備を認め、有罪を認めていた。
利益相反の指摘にスティーブ・ウィトコフ反発、クシュナーも「信頼関係だ」と反論
利益相反の疑念にさらされているのは、トランプだけではない。先日放映されたCBSの番組「60ミニッツ」のインタビューで、スティーブ・ウィトコフも同様の懸念に反発した。彼は、トランプの娘婿であるジャレッド・クシュナーと組んでおり、クシュナーの運営する54億ドル(約8208億円)規模の投資会社は、アラブ首長国連邦(UAE)をはじめとする湾岸諸国から多くの資金を集めている。
クシュナーは、「人々が『利益相反』と呼ぶものを、私とスティーブは『世界中で培ってきた経験と信頼関係』と呼んでいる」と主張した。ウィトコフも、最近のガザ停戦を引き合いに出しながらこう付け加えた。「私たちはこれまで、各国の首脳に直接電話をかけて働きかけてきた。相手にしていたのは下級官僚や部下ではない。最終的な決定を下す当事者たちと直接話をしていたのだ」。
トランプ家は今ようやく、自らが抱えるさまざまな利害を一体化することで得られる利益を実感し始めている。近い将来、トランプ系ホテルが暗号資産での支払いを受け付けるようになるかもしれない。
ウォール街で「企業のバランスシートに暗号資産を積み上げる」という流れを先導したビットコインのビリオネア、マイケル・セイラーは、マール・ア・ラーゴのテラスでエリック・トランプに別の提案を持ちかけた。エリックが今年初めのカンファレンスで語ったところによると、セイラーは「マール・ア・ラーゴを今すぐ担保に入れて20億ドル(約3040億円)借りろ。そしてビットコインを買え」と彼に持ちかけたという。これに対しエリックは、「いや、今父の家を担保に入れたら……あまり喜ばないと思うよ」と答えたという。


