北米

2025.10.29 11:30

中東ドバイで膨らむトランプ家の収益、「不動産のトークン化」は進むか

2025年5月、アラブ首長国連邦・アブダビを訪れたドナルド・トランプ米大統領(Photo by Win McNamee/Getty Images)

2022年に沈黙を破り、オマーン政府と新契約

2022年、トランプ・オーガニゼーションはようやく新しいライセンス契約を結んだ。オマーンの首都マスカット郊外にあるゴルフコミュニティの開発案件で、オマーン政府と組んだプロジェクトだった。その取引の相手には見覚えのある人物がいた。ドバイでトランプ家と取引したサジュワニの部下、エル・シャールだ。彼はその後、サウジアラビアの不動産会社ダール・アル・アルカンに移籍しており、オマーンの案件が両者の新たな関係を築くきっかけになった。

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その後、トランプの政権復帰が現実味を帯びるにつれて、ビジネスも一気に加速した。2024年6月の大統領選討論会でジョー・バイデンが失態を演じてから4日後、ダール・アル・アルカンの国際部門は、サウジアラビアで「トランプ」ブランドを導入する契約を発表。数週間後には、ドバイでも新たな契約を明らかにした。その後も取引は続き、選挙後にはサウジアラビアで2件、カタールではゴルフクラブの契約が結ばれた。

2024年のライセンス収入は約68億円へ、ブランド価値も高騰

こうした展開により、トランプのライセンス収入は2023年の推定700万ドル(約10億6000万円)から、2024年には4500万ドル(約68億円)へと急増。ブランド事業の価値も1年間で1億ドル(約152億円)から5億ドル(約760億円)に跳ね上がった。

「彼は言うまでもなく、世界で最も影響力のある人物だ」と語るのは、トランプ家とバンクーバーでライセンス契約を結んだ元パートナー、ジュウ・キム・ティアだ。「多くの人が彼に近づきたがる。政府関係者もそこに含まれている。トランプと関係を持てば、地元政府が自分たちに好意的になったり、新しい道を開いてくれたりするかもしれないと考える企業も少なくないだろう」。

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データセンター事業を暗号資産へと方向転換

そのような見方をする人がいても不思議ではない。1月7日──ホワイトハウス復帰を13日後に控えたトランプは、マール・ア・ラーゴにUAEの不動産開発業者フセイン・サジュワニを招いた。彼の企業は、トランプに年間約600万ドル(約9億1000万円)のライセンス料と運営報酬を支払っており、この日、彼は米国でデータセンター事業を拡大するために200億ドル(約3兆円)を投じる計画を発表した。「11月の選挙で彼が勝利したことは、私と家族にとって本当にうれしいニュースだった」と、黒いスーツに赤いMAGAネクタイを締めたサジュワニは語った。「私たちはこの4年間、米国への大規模投資の機会を待ち続けてきた」。

トランプはその日、人工知能(AI)時代におけるデータセンターの重要性を語りつつ、自身のビジネスパートナーの面倒を見ることを約束した。「われわれには、環境面でこれまでほとんど使われてこなかった権限がある」と彼は言い、「もし10億ドル(約1520億円)超を米国に投資するなら、あらゆる審査を迅速に進める」と付け加えた。

その言葉を聞いたトランプの息子たち──かつてサウスカロライナ州で倉庫取引に失敗した経験を持つエリックとトランプ・ジュニア──は、その1カ月後、自らの会社「アメリカン・データ・センターズ」を設立した。AIを中心としたその事業構想は、奇しくもサジュワニの計画とよく似たものだった。

「アメリカン・ビットコイン」、約2兆円の時価総額

だがトランプ家はまもなく、データセンター事業を暗号資産へと方向転換した。ビットコイン採掘企業と組み、「アメリカン・ビットコイン」として再出発したのだ。「あの日のことは忘れられない」とエリック・トランプは後に語っている。「私は彼らにこう言った──“社名は2語にしろ。『アメリカ』と『ビットコイン』を入れるんだ”と」。

アメリカン・ビットコインは先月、上場を果たした。エリックは「テキサスの安価な電力を使い、取引価格のごく一部のコストでビットコインを採掘できる」とアピールした。投資家たちは殺到し、この企業の時価総額はピーク時に130億ドル(約2兆円)超に達した。同社は、2025年第1四半期に約1億ドル(約152億円)の損失を出していたにもかかわらずだ。その後、株価は61%下落したが、それでもエリックの保有株の価値は約4億1000万ドル(約623億円)と見積もられている。

UAEでの採掘事業を検討、アブダビ政府系企業と協議か

アメリカン・ビットコインのマイク・ホーCEOは先週、ドバイで開かれた投資サミットに出席し、同社がUAEで採掘事業の拡大を検討していると報じたArabian Gulf Business Insightの記者と会話した。ホーはまた、現地のエネルギー企業Taqa(ターカ)や投資会社ADQと話し合いを持ったとも述べた。ホーの広報担当者はフォーブスに対し、「これらはアメリカン・ビットコインの立ち上げ以前の会話を指している」と説明したが、TaqaやADQとの最近のやり取りに関する追加の質問には答えなかった。両社はいずれもアブダビ政府が支配する企業だ。

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翻訳=上田裕資

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