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2025.10.31 16:00

「分断の時代」に問われる大学の役割──対話と協働で切り開く未来への道筋

2019年にスタートし、今年で7回目を迎える「東京フォーラム2025」が、11月21日、22日の2日間、東京大学・安田講堂で開催される。東京大学が韓国・崔鍾賢学術院との共催で、年に1回世界の有識者を招いて講演やセッションを行う本フォーラム。今年のテーマは「資本主義を問い直す」だ。


なぜ今このテーマを選び、世界にどんなメッセージを発信していきたいのか、東京大学総長の藤井輝夫、理事・副学長の林香里に話を聞いた。

——「東京フォーラム」は2025年で7回目を迎えます。そもそも東京大学がフォーラムを立ち上げた経緯を教えていただけますか。また、これまで果たしてきた役割と成果をどう評価されていらっしゃるのでしょうか?

藤井輝夫(以下、藤井):世界に発信するプラットフォームをつくりたい、という思いは東京大学として、以前から持っていたものでした。動き出したきっかけは2018年。北京大学で行われた国際フォーラム「Beijing Forum」に前総長の五神真先生が招かれました。アカデミアから経済界、国際機関まで幅広い分野の世界的なリーダーが集まりグローバルな重要課題が議論されているのを見た五神先生が、東京でも開催できないかと伝えたところ、フォーラムを主催していた韓国の学術振興財団・崔鍾賢学術院から東京大学との共催をご提案いただきました。これから来たるべき時代に備えて何を考えていくべきか、「Shaping the Future」という大きなテーマを設けて一緒に議論を深めていこうと、2019年に東京フォーラムがスタートしました。

林香里(以下、林):藤井総長のもと、東京大学では国際化を非常に重視してきました。総長自ら、世界経済フォーラムのダボス会議をはじめ、さまざまな国際会議に出向き、海外の大学教授や政治家、NGOや国連の関係者などあらゆる分野の方と話し合いを重ねてきています。学生たちのバックグラウンドも多様化し、研究者の研究テーマも年々グローバルな課題へと広がっている。東京大学自体が“日本の大学”という枠組みを飛び出していこうとするなか、東京フォーラムは、まさにそのショーケースのような場になっているのではないかと。

講演を含め、進行がすべて英語で行われる点でも、世界へのメッセージを強く意識しています。日本のみならず、多くの国が内向きになりつつある今の状況だからこそ、世界で何が起こっているかを東京大学の安田講堂から発信していくことに意義があると考えています。

学際的対話が新たな視座を開く

——今年のテーマに「資本主義を問い直す:多様性・矛盾・そして未来へ」を掲げられています。なぜ今、資本主義に向き合う議論が必要なのか。テーマを設定された背景に、どのような問題意識をお持ちですか。

藤井:地球というグローバル・コモンズ(人類の共有資産)をどう守っていくかは、2019年のフォーラム初回からずっと議論してきたテーマです。プラネタリー・バウンダリー(地球環境が安定した状態を保つために守るべき境界線)を超えて地球のキャパシティがいっぱいになっている。その背景に資本主義の広がりがあり、人類には多くの難題が突きつけられています。今まさに、私たちは資本主義が問われる世界的状況のなかを生きているのです。

崔鍾賢学術院の代表であり、韓国財閥SKグループ会長のチェ・テウォン氏も、「GDPのようなエコノミック・バリューを測る指標だけではない、ソーシャル・バリューを測る新たな仕組みを立ち上げていく必要があるのではないか」と毎年のようにフォーラムの場で述べておられます。これからの社会を築いていく若い世代の皆さんにも、資本主義の仕組み自体に問いを持って向き合い、新しいあり方を一緒に考えていってほしい。そんな議論を深めるタイミングが来ているのではないでしょうか。

藤井輝夫 東京大学総長
藤井輝夫 東京大学総長

:「問いを立てる」ことは大学教育における柱のひとつであり、資本主義とは、現代社会の矛盾を問う上で欠かせない概念であると考えています。また、今日のように世界の人の移動が活発化し、情報テクノロジーのおかげで知の流動性が常態化した背景には、資本主義という原動力がありました。資本主義を抜きに、今ある社会状況を語ることはできません。

大学自体も資本主義から逃れることはできないでしょう。研究にはお金がかかりますし、東大として注力しているスタートアップ・エコシステムの創出においても、資本主義の中でどう事業を生み出し、社会課題の解決とのバランスをとって行くのかに向き合っていかなくてはいけません。今回のフォーラムでは、高等教育と資本主義、環境問題と資本主義、民主主義と資本主義など、一見別の領域に見えるテーマがどういう関係にあるのかを問い直すなど、非常に多角的で面白いセッションが用意されています。

藤井:大学も社会のなかのひとつの組織です。大学だけで、人類社会が直面する難題に向き合っていても解決にたどり着けません。

2023年に経済同友会が「共助資本主義」を掲げ、インパクトスタートアップ協会、新公益連盟と連携協定を締結しました。これは成長だけではなく、産学官民の垣根を超えた共助により、社会課題の解決をともに目指していこうという動きです。2025年にはその理念に共感した全国各地の大学による「共助資本主義の実現に向けた大学連合(SOLVE!)」を設立しました。現在、14大学で活動しています。すでに学生の間で広がってきている「社会をよくしたい」という機運を共助資本主義の実現をめざす活動とつなげることにより、大学の学生や研究者がその新たな担い手として加わる機会を増やすことを目指しています。

いわゆる研究発表などの専門領域におけるコミュニケーションだけではなく、多くの人々が共有する社会課題について、わかりやすく考えを伝え、開かれた対話の場をつくっていくことが、資本主義を含めた社会システムの一翼を担う大学のあり方として、今とるべき大事なアクションなのだろうと思っています。

:まさにそうですね。私が学生だった頃、大学は資本主義とは関係ない場だとむしろ敵視するような時代の空気がありました。産学連携なんて言おうものなら、「学問は市場原理に屈するのか」などと言われてしまってね。でも、異なる考えの人同士が出会って対話することこそが、新たな価値創造につながるのだと私は信じています。

フォーラムでは、資本主義という大きなテーマを介して、産業界と学問の世界に身を置く専門家たちが真剣に議論し、その様子を発信していきます。厳しい葛藤に直面するかもしれませんが、「難しい」という答えが出ること自体をひとつの成果として、新たな気づき、価値や思想をこれからの研究に取り入れて進んでいきたい。大学だけに閉じて生きていける社会状況にはないのですから、対話の機会を持つことで自分たちの立ち位置をもう一度確かめていく必要があると考えています。

林香里 東京大学理事・副学長
林香里 東京大学理事・副学長

歴史と向き合い、未来を語り合う意義

——2025年は日韓国交正常化60周年の節目でもあります。韓国の学術振興財団との共催で、東アジアの視点から議論を発信していく意義をどのようにお考えですか? フォーラムを通じて実現したい未来社会の姿をお聞かせください。

藤井:2021年の総長就任以来、さまざまな国際会議の場で議論に参加してきました。そこで感じてきたのは、アジアからの視点がまだまだ十分に発信できていないという課題です。資本主義という人類共通のテーマに対して、東アジアという近しい地理的環境、文化を持つ二国による議論は、新しい気づきや価値を提供できる可能性があると考えています。

:韓国と日本との間には、植民地時代という厳しく痛切な過去が横たわっています。そんな両国がいま、こうして国際会議を共催し、議論できていることがありがたく、世界に向けた大事なメッセージが含まれているのではないでしょうか。

フォーラムでは、日本と韓国の学生が約10人ずつ集まりグループに分かれて討論、研究発表をするユースセッションを毎年開催しています。学生たちの専門も文系理系さまざまです。各グループによる発表がゴールになりますが、そこに行き着く過程こそが大事。資本主義に関する議論では、考え方の違いから難しさにぶつかることもあるでしょう。日本に対して否定的な意見に直面する学生もいるかもしれません。でもその経験こそが重要なのだと考えています。

韓国は80年代の民主化運動を経て現在の政治体制をつくりました。一番近い外国でありながら、日本とは異なる歴史を辿ってきている。議論を通して、そうした歴史観がどれだけ重要なのか。国や政治が個人を掌握する力とはどの程度のものなのか。日本社会の日常や教科書からは学べないことにリアルで触れる経験から、「自分はこれまで何を勉強してきたのだろう」「自分たちの国や社会とはどういうものなのだろう」と、考える機会が生まれてくるでしょう。異なる分野や出自の人と対話を重ねることが学びにつながり、新しい価値をつくっていくのだと、東京フォーラムが気づきのきっかけになれれば。その気づきの輪を若い世代に広げていくことができれば、微力ながら、より良い未来づくりに貢献できるのではないかと思っています。

Tokyo Forum
https://www.tokyoforum.tc.u-tokyo.ac.jp/


ふじい・てるお◎東京大学工学部船舶工学科卒。東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻博士課程修了。博士(工学)。専門は応用マイクロ流体システム、海中工学。理化学研究所研究員、東京大学生産技術研究所長、東京大学理事・副学長などを経て、2021年に東京大学第31代総長に就任。

はやし・かおり◎ロイター通信東京支局記者、東京大学社会情報研究所助手、ドイツ、バンベルク大学客員研究員(フンボルト財団)を経て、2009年より東京大学大学院情報学環教授。専門はメディア・ジャーナリズム研究。2021年から東京大学理事・副学長。

Promoted by 東京大学 | photographs by Shuji Goto | text by Rumi Tanaka | edited by Miki Chigira