欧米では「ドローンパニック」が頻発しており、遠方の航空機や衛星、惑星などが近距離の無人機と誤認される事例が相次いでいる。こうした目撃情報は連鎖的に拡大する。一度皆が空を見上げ始めると、上空のあらゆる見慣れない光が無人機に見えてくるのだ。
これらを撃つ行為は危険を伴う。上空へ向かった弾丸は必ず落下し、時に致命的な結果を招く。石油精製所の可燃性の環境下では、危険性がさらに大きくなる。
モスクワはこうした予備役兵では守れない。アナリストらは最先端のS300、S400ミサイルシステムや移動式対空車両の動きを追跡しており、これらが多重防衛網を形成している。ウクライナ人アナリストのウラディスラウ・クロチコウによれば「システムは依然として他地域から首都モスクワへ搬入中」だという。
この都市型無人機防御壁の目的は、現代の「皇帝」であるウラジーミル・プーチン大統領を守るだけではない。プーチン大統領はクレムリン地下の防爆シェルターで比較的安全だと感じられるだろう。昨年には冷戦時代のモスクワの深層防空壕が改修され、同大統領には多くの選択肢が与えられている。
危険にさらされているのはプーチン大統領本人ではなく、同大統領の権力基盤だ。防衛システムは無人機を寄せつけず、都市の政府高官や新興財閥オリガルヒ、軍司令官らに安心感を与えるだろう。近隣で爆発が起きないということは、こうしたエリート層とその家族は安全で、すべてが計画通りに進み、ひどい状況には陥っていないことを意味する。
これまで、ロシア国内では「特別軍事作戦」と呼ばれるウクライナ侵攻に対する批判はほとんどなかった。プーチン大統領は87%もの支持率を維持している。だが、無人機の襲来警報が連続し、停電が頻発し、モスクワ上空に立ち上る煙を毎朝のように目撃すれば、市民は考え直すかもしれない。
戦争に対するロシア人とウクライナ人の姿勢の違い
ウクライナ側は、これほど多くの防空資産がモスクワに急遽配備される事態を、むしろ歓迎しているかもしれない。ウクライナ国防省のキリロ・ブダノウ情報総局長はインタビューで、防空システムは占領地域とモスクワ、第2の都市サンクトペテルブルク近郊にのみ集中配備されていると語った。「その他の地域では配備されていないか、(配備されていたとしても)無人機に対する脅威とはならない。国境沿いに展開されたシステムを迂回(うかい)すれば、ロシア上空を飛行するわれわれの無人機は常に問題なく進める」。これにより、一部の予備役兵を除けば、残存する製油所へ無人機が無傷で到達することが保証されるわけだ。
ウクライナの首都キーウは戦争開始以降、数年間にわたってロシア軍による夜間の無人機攻撃に耐えてきたが、モスクワは今まさにそれを経験し始めたばかりだ。だが、両者には2つの大きな違いがある。
1つは、ウクライナでは対無人機防衛能力が着実に強化され、多数の撃墜が確認されている点だ。一方、ロシアでは軍事ブロガーが防衛システムの非効率性を頻繁に嘆き、迎撃無人機などの新技術導入の遅れを批判している状況だ。
もう1つの違いは、ウクライナ人が自らの命と国家存続をかけて戦っているのに対し、ロシア人はプーチン大統領の広大な帝国に小さな領土を追加するためだけに戦っている点だ。ロシア人にとって、この戦争は任意の選択に過ぎない。だからこそ、プーチン大統領は石油精製所が次々と炎上するのを目の当たりにしながらも、モスクワが焼け野原になるのを許すわけにはいかないのだ。


