ノスタルジアはいつから、マーケティング戦略としてこれほど収益性の高いものになったのだろう? イノベーションと将来を約束するような事業に力を入れるブランドの多くが、昔を振り返るのはなぜだろうか?ほとんどの企業が未来を重視するなか、「過去を売る」ことがこれほど魅力を持つものになったのは、なぜだろう──?
不確実な時代に、人々は心の安らぎを求め、本能的に過去に目を向ける。現在よりも温かく、安心感があった過去を思い起こす。その過去を恋しがる気持ちを容易に引き起こすのは、香りや歌、写真、あるいはその当時の生活を特徴づけるブランドだ。
過去は私たちの感情となり、そして私たちは、無性にそこへ立ち戻りたいと願う。多くのブランドが、私たちのこうした心の動きをうまく利用しようとしている。
ランコムがリップグロスの「ジューシーチューブ」を復活させたことから、GAPが人気を取り戻していることまで、「ノスタルジア・ビジネス」の収益性は、大幅に高まっていると考えられる。
社会に広がる「懐古」と「現実逃避」
ノスタルジアは誰にでもあるものだが、ブランドがそうした私たちのそうした「懐かしむ気持ち」を利用するようになっているのは、ミレニアル世代とZ世代の影響だ。
ファッションからビューティー、メディア全般まで、ノスタルジアがこれほど幅広く受け入れられている理由は、容易に理解し得る。これらの世代は何かに圧倒され、無力さと不安を感じている。全体的に広まる疲労感や将来の不透明感が、人々を自然に「過去に立ち戻りたい」気持ちにさせている。
さらに、こうした状況はもうひとつの別の現象も引き起こしている。それは、特にミレニアル世代とZ世代に顕著な「現実逃避」だ。ある調査によると、現在の世界情勢を考えれば、現実から逃げたくなるという人は91%にのぼるという。
ただ、この調査を主導したMcCann Worldgroup(マッキャン・ワールドグループ)の調査部門、TruthCentral(トゥルースセントラル)の責任者であるジェス・フランシスはマーケティング・コンサルタントの英CreativeBrief(クリエイティブブリーフ)に対し、現実逃避のトレンドは必ずしも懸念すべきトレンドとは言えないと話している。
「心理学者や社会科学者などから話を聞いたことで得た最大の学びのひとつは、逃げることはもともと、良いことでも悪いことでもないということです。SNSは良いものでも、悪いものでもありません。重要なのは人の意思であり、結果はその意思によって、もたらされるのです」
「ですから、ブランドは自社の製品やサービスが人々に何を促すのか、そのことを真に理解する必要があるということです。それは、インスピレーションだろうか?あるいは再生?それとも、人々にスイッチを切って、つながりを断つことを促しているのだろうか?、といったことです」
市場をみると、それは再生とポジティビズムであり、現在をより温かく、未来を少しでも親しみが感じられるものにする方法だと考えられる。



