「食を通じて、いのちを考える」を掲げる大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「EARTH MART」と Forbes JAPANが連動し、食の未来を輝かせる25人を選出した。生産者、料理人、起業家、研究者……。本誌 11月号では、豊かな未来をつくる多様なプレイヤーを紹介する。
海藻栽培で海の環境を再生、新たな食文化をつくる
蜂谷 潤・友廣裕一|シーベジタブル共同代表
全国で磯焼けが進み、天然の海藻が激減している。海苔の生産量は過去20年で半分以下となり、価格は2倍以上に跳ね上がった。「コンビニに海苔を巻いてないおにぎりが増えている」とシーベジタブル共同代表の友廣裕一は言う。
同社は世界でも類を見ない海藻の種苗生産技術を確立し、陸上と海面で10種類以上の海藻の量産を行う。海藻を生産する海域では生態系が回復。魚の数が36倍になったデータもある。最近は、自治体が企業版ふるさと納税で資金を集め、シーベジタブルの技術で海を再生、海藻産業や雇用を創出するという地域連携の仕組みを構築。すでに10以上の自治体でプロジェクトが進行する。
並行して力を入れるのが、海藻をおいしく食べる食文化づくりだ。料理人を社内に迎え“海藻が主役”の料理を開発。百貨店等で催事を行い、認知と可能性を広げている。「海藻は、誰ひとり傷つけない、みんなが幸せになる食材」と友廣。海藻で海と地域と食文化を活性化させる。そんなあたたかな革命が日本の海に広がっている。

蜂谷 潤、友廣裕一◎2016年にシーベジタブルを創業。磯焼けにより減少しつつある海藻を採取・研究し、環境負荷の少ない陸上栽培と海面栽培によって蘇らせ、海藻の新しい食べ方を提案。蜂谷が主に研究・生産の面を担い、友廣が人や組織をつなぎながら事業開発や海藻食文化を広げる。
「魚の価値を最大化」する静岡の魚屋の矜持
前田尚毅|サスエ前田魚店 店主
「20年前です、海の異変に気づいたのは」。そう語るのは焼津で「サスエ前田魚店」を営む前田尚毅。国内外の一流料理人が信頼する魚のプロだ。海のみならず山の生態系が崩れたことで水揚げ量が減少した駿河湾で、前田は状況に矢継ぎ 早に手を打つ。例えば白甘鯛。売れるからといって獲りすぎ、高値で売り捌いては価値が狂う。漁師たちを説得し、10年前からその7割以上を相場より高く買い支えてきた。「目先の利益じゃなく、未来に魚を残すためです」。
前田の真骨頂は魚の魅力を最大化する“仕立て”にある。漁法から締め方、冷却方法、保管時間などを見極め、魚の食感や香りを引き出す。最高の魚は積極的に地元の料理人に供給し、店の価値を引き上げる。予約困難店となった天ぷら「成生」もそのひとつ。県外から人を呼ぶ店が増えつつある。前田は漁業をリレーにたとえる。漁師から魚屋、料理人がアンカーとなって食べ手に届ける。引き継ぐバトンは“人の想い”だ。その連帯が、地域の漁業と食文化の未来を照らす。

前田尚毅◎1974年、静岡県焼津市生まれ。60年以上続く「サスエ前田魚店」の5代目。学生時代から市場の競りで記録係を務めるなど、魚関連の仕事に勤しむ。水産高校卒業後、水産会社で荷受や仲卸しの仕事を学んだ後、95年に家業を継承。国内外の名だたる飲食店に魚を卸している。



