経営・戦略

2025.10.27 17:15

天理のコンビニのトイレはなぜきれいなのか 「当たり前」の高め方

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PARaDE代表・中川淳が、企業やブランドの何気ない“モノ・コト”からライフスタンスを読み解く連載。今回は天理市で偶然立ち寄ったコンビニのトイレの美しさから紐解く、掃除と仕事の関連性、そして「当たり前」のレベルを高く保つことの重要性について考察する。


「本質」が現れる場所

来たる2025年11月7日〜9日に奈良県天理市で、工場や倉庫、小売店、飲食店など、ものづくりの現場や仕事の裏側を見学・体験できるオープンドア・イベント「天理 倉の耕流祭」が開催される。中川政七商店も同市の物流拠点であるNKG倉庫を「倉」と捉え、地域にひらいて楽しんでもらう予定だ。その打ち合わせで天理市を訪れた際、道すがら立ち寄ったコンビニのトイレに驚かされた。

とにかくきれいなのだ。都心ではなかなかお目にかかれないほどの清潔さで、美しさのレベルが違っていた。

一体なぜなのか。 ふと頭をよぎったのが天理教の存在だった。天理教には「ひのきしん(身上や生活への感謝を行動で表す奉仕)」という実践がある。掃除もその一つであり、特別な理由や見返りを求めず、感謝の心から行う奉仕とされている。

もしかするとこのコンビニで働くスタッフの中に、天理教の信者がいるのではないか。そして、その人たちにとってトイレ掃除は単なる業務ではなく、当たり前のひのきしんとして根付いているのではないか。そんな勝手な推測を抱いた。

気になって別のコンビニでもトイレを借りてみたが、やはりそこもピカピカに磨かれていた。天理市という土地全体に、そうした「当たり前」の意識が浸透しているのかもしれない。

トイレの美しさと経営の関係性は昔から語られてきた。誰も見ていないところにこそ、物事の本質が現れるからだ。オフィスや店舗でトイレが清潔で美しいかどうかは、経営者が細部まで気にかけているかの象徴であり、「謙虚さ・気づき・感謝」といった経営の根本的な資質を映し出す。

掃除も仕事も「向き合い方」は共通

私はこれまでも中川政七商店でも、自分たちの働く場所を自分たちで掃除することを習慣としてきた。ただし強制ではなく、参加は社員の自主性に委ねている。そこで見えてきたのが、掃除を積極的に行う人ほどパフォーマンスが高いという事実である。日々の当たり前の行動の中に個々の仕事に対する姿勢=ライフスタンスが色濃く現れ、成果に繋がるのだろう。

「当たり前のレベルを高く持とう」。これは私が新入社員にいつも伝えてきた言葉だ。新人に仕事を任せるとアウトプットの質は人によってばらつくが、それは各々が考える当たり前の基準に差があるから。仕事の評価は、この当たり前のレベルの高さに大きく左右される。

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文=中川淳 構成=国府田淳 編集=松崎美和子

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