食&酒

2025.11.08 11:30

小山薫堂×太田和彦、 食への想像力がやさしい未来をつくる

小山薫堂・太田和彦

小山:数年前にパビリオンの構想を有識者にプレゼンしたとき、裏千家の家元がふと、山でクマに遭遇した話をしたんです。「食うことしか考えたことがなかったけど、クマにとっては人も食い物なんやなぁ」と。その示唆と語り方がかっこよくて。倉本さんも以前、「森の中で人知れず死んで、食べられて、地球に循環したい」と理想の死に方を話していました。 

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太田:人は死んだ瞬間から腸内細菌に「食べられ」、分解が始まります。では「食べられる」存在としての尊厳は何か。彫刻家の平櫛田中は「転生」という作品で、生ぬるい人間を喰った鬼が、あまりのまずさに吐き出してしまう様子を表現しています。果たして自分は吐き出されない生き方をできているか、と考えるのは想像力の鍛錬になります。 

小山:僕は子どものころから人間の上位階級の存在を想像して、今もよく「食べられる側でなくてよかった」と思います(笑)。想像力でいうと、最近、10年前に特別編集長を務めた「AERA」を読み返したんです。『やさしくなりたい』という特集で、そのあとがきに、やさしさとは他者を思う力。それがあれば謙虚さ、感謝の気持ちが生まれると書いていました。EARTH MARTでやりたかったことも同じだなと。食べ方の提案ではなく、訪れた人がこれを機に謙虚に手を合わせられたら、世の中はもっと良くなるのでは、という思いをかたちにしました。

太田:謙虚さは、大加速後の世界の重要なテーマです。個人の「いただきます」ももちろん大事ですが、それを社会の制度として実装することができるか。人が自然と感謝したくなるような仕組みを考えていきたいと思います。

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太田和彦◎南山大学総合政策学部准教授。環境倫理学、食農倫理学、風土論、持続可能な社会への移行/転換などのテーマを扱う。主著に訳書に『食農倫理学の長い旅-〈食べる〉のどこに倫理はあるのか』など。

小山薫堂◎放送作家、脚本家。大学在学中から放送作家として数多くの番組を企画・構成。映画「おくりびと」でアカデミー賞外国語映画賞を受賞。大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「EARTH MART」をプロデュース。

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