日本は文化で世界をリードする国になれるか 都倉俊一文化庁長官インタビュー

文化庁長官 都倉俊一

文化庁長官 都倉俊一

文化の力を、どう社会や経済の活力へと転化していくのか──。2025年9月25日発売のForbes JAPAN本誌では、「カルチャープレナー」を特集。文化や創造の力で新たな価値を生み出す起業家たちを取り上げた。

この特集に寄せて、文化庁長官・都倉俊一が語ったのは、文化を“守る”から“活かす”へと転換する時代のビジョンだ。京都移転から2年、現場に根ざした文化行政の手応えを経て、都倉が描く「文化立国・日本」の未来像とは。


文化庁長官に就任して4年あまり、私は一貫して「文化芸術こそが日本のパワーである」と訴え続けてきました。まさに「カルチャープレナーシップ」の重要性です。日本の漫画やアニメといったコンテンツ産業は、ほとんど国が助力することなく海外へと羽ばたき、今や世界一になりました。

一方で、アメリカのような文化大国は、ハリウッドや音楽産業などを政府が積極的に支援している。なかでも大きいのは税制面のサポートですね。こうした体制は非常に羨ましく、日本も「文化立国」を実現していくためには、「文化で立つ国」として自らを定義し直し、文化を支える仕組みそのものを国家の根幹に据えていく必要があると考えています。文化庁の予算は私が就任した当初よりも増加させてきましたが、それでも韓国に及びません。改革はまだ始まったばかりです。

京都から見えた文化の本質

私は音楽家としてキャリアを歩んできた人間で、いわば霞が関には「素人」としてやって来ました。そもそも文化庁が創設された使命は、戦後の荒廃の中で日本の有形・無形の文化財を守り、維持管理、継承していくこと。その責務の重さと、限られた予算の中で文化を支える難しさを痛感しました。

さらに、文化庁の業務範囲は非常に広大です。「食」は基本的に農林水産省の所管で、「酒」の管理・免許を担うのは財務省ですが、「和食;日本人の伝統的な食文化」や「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産への登録などを通じて日本の文化の多様性や深みを世界に広く発信していくのは文化庁です。和紙も畳も同じ。広範囲な文化領域をバックアップする必要があるのに、予算も人員も圧倒的に不足している。世の中の動きが早く、行政の仕組みが追いついていないのが現状です。

そうしたなかで、2023年の京都移転は非常に大きな意義があったと思っています。当初は地方創生のジェスチャーだと言われたりもしましたが、私自身が京都に移り住んでみて、意識が大きく変わりました。霞が関から全国を俯瞰して文化行政を行うのと、千年の都から行うのではまったく違う。「文化の時間軸」や「生活の温度」の違いを体感し、京都で暮らして初めて生活そのものに根ざした文化の豊かさを実感しました。我々は頭の中だけで地方の実態をわかっているつもりになっていたのだなと。

京都に限らず、我々はもっと地域を知るべきだと思います。文化庁は現在、全国104カ所を「日本遺産」として認定していますが、地方の方々にもっと自分の郷土に誇りをもってもらうと同時に、地方自治体も自分たちのふるさとを改めて研究してもっと観光振興へとつなげてほしいと期待しています。

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文=西澤千央 写真=曽川拓哉

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