日本は文化で世界をリードする国になれるか 都倉俊一文化庁長官インタビュー

文化庁長官 都倉俊一

カルチャープレナーをどう育てるか

文化の継承や保護だけでなく、それを社会や経済の循環に乗せていく仕組みづくりが重要ですが、そのカギを握るのがカルチャープレナーです。この場合、カルチャープレナーは必ずしも「芸術家」である必要はありません。むしろ、そうでないほうがいい場合も多い。

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世界のアート市場は約9兆円規模ですが、日本は先進国でも画廊数が多いにもかかわらず、その潮流にほとんど参入できていません。その理由のひとつは、「アート・カルチャープレナー」が著しく少ないから。つまり、作家の感性に補助線を引いて価値を可視化できるプロデューサーやプロモーターがほとんどいない。ビートルズがブライアン・エプスタインという名プロデューサーに出会って初めて世界的存在になったように、音楽、絵画、クラシックなどあらゆるジャンルにそうしたビジネスの担い手が不可欠です。

 私自身もロンドンで10年以上音楽の仕事をしてきました。時々プロデューサー、時々作曲をやりながら。でもその両立は難しかった。音楽をつくりながらお金の計算なんかとてもじゃないけどできません。創る人と売る人を分けるのは鉄則なんですよ。文化を経営の視点で動かせる人が必要です。

では、そういったカルチャープレナーをどう育てていけばいいのか。私は「異業種からの流入」にヒントがあると考えています。音楽家そのものよりも、金融業界で培ったビジネス感覚と交渉力をもった音楽好きのほうが、優れたプロモーターになることもある。異業種で培った人間関係や交渉能力が価値を売る大きな強みになるわけです。

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さらにいえば、カルチャープレナーは必ずしも日本人でなくても構わない。矛盾しているかもしれませんが、歴史的に見ても日本の文化はあまりプロモートすると意味がないんです。以前からお伝えしているように、日本は長らく「発見されてきた文化」だから。

この10年でインバウンド観光の質は劇的に変化しました。2024年には訪日客が3600万人を超え、リピーターが極めて多い。なぜ4回も5回も日本を訪れるのかといえば、「見て食べて体験して」だけじゃない、日本文化の深さを知りたくなるからです。例えば、剣道や柔道、茶道や華道などの「道」という概念、つまり精神性に魅力を感じる人が多い。スポーツ庁の室伏広治前長官が「武道ツーリズム」を提唱していますが、そういったスピリットが大きな観光資源になるというのは世界の中でも驚くべきことだと思います。

これだけソーシャルネットワークが発達した世の中ですので、日本文化に興味をもった人にプロモートしてもらえばいい。正しい情報をしっかりと準備した上で、常にドアを開けておく。世界中の人々が日本文化を自由に“発見”できるようにしておくことが重要です。

カルチャープレナーが切り開く未来

今のアメリカを見ていると、物質主義や経済の行き詰まりだけでなく、人々の心も疲弊しているように思えます。あらゆる「容量」がいっぱいになってしまっていて、受け止める場所や余裕がない。私は人々が萎縮してしまっている原因が文化の行き詰まりにあるんじゃないかと思うんです。

最近、長く日本に暮らす外国人が日経新聞に寄せた「パクス・ニッポニカは可能である」というコラムを読みましたが、アメリカやイギリスが経済力や軍事力によって秩序を築いたのに対し、日本は精神性によって社会の調和を保っていると書かれていました。先進国の中で日本ほど容量のある文明社会は他にないと私も思います。

文化の伝播には、異業種人材の参入だけでなく、ありとあらゆる能力や役割、そしてその掛け算や順列の組み合わせが必要になってきます。精神性や文化力が重視される時代、もう一度人間の生き方そのものが問われる今、もっとも期待されるのがカルチャープレナーのもつ力。これは間違いない事実です。

文=西澤千央 写真=曽川拓哉

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