モビリティの力で目指すこと
──そしてもう一つ、アリーナとしては非常に特徴的な重点テーマである、「モビリティ」に関する計画、考えについて、聞かせてください。トヨタの情報発信拠点「メガウェブ」の跡地でもありますし、すぐ隣でトヨタ系名門レーシングチームのトムスが運営する「シティサーキット東京ベイ」も営業しています。どう取り組んでいきますか?
トヨタグループや近隣の行政・事業者と連携しながら、モビリティの導入を進めています。
アリーナ内ではアルバルクの試合日を中心に、トヨタの次世代モビリティ「e-Palette」を飲食店舗として利用する「e-Paletteショップ」の運用をスタートし、敷地外では、トヨタ・コニック・プロを中心とするコンソーシアムが都の公募事業者に採択され、シンボルプロムナード公園でのe-Paletteによる周遊サービス「PALETTE RIDE」を10月から運行して、地域内の移動インフラの提供を開始しました。
●まちの課題解決と将来的なモビリティの可能性をともに探る
この臨海副都心は大きな可能性を秘めたエリアですが、一方で街の大きな課題の一つが「エリア内の周遊性」にあるとの意見が多く、私自身もそう考えています。
近年、魅力的な施設が多く建設されていますが、その魅力をより輝かせるためにはエリア内の輸送能力向上が必須であり、それを支える手段としてモビリティの力は欠かすことのできないものです。
都公募事業「PALETTE RIDE」の安心・安全な運行の経験値を積むと同時に、行政や周辺事業者、東京臨海副都心まちづくり協議会の皆さまとも密に連携しながら、移動ニーズの掘り起こしや将来的なモビリティの可能性を探る取り組みを進めています。
Bリーグの現状、課題は?
──では最後に、バスケの話を伺います。Bリーグが今シーズン、開幕10周年という大きな節目を迎え、来シーズンからは新設されたトップカテゴリー「B.LEAGUE PREMIER」が始まります。現状をどう捉えていますか?
当初の設計図からは期待以上で推移していると思います。
来シーズンからB.革新として、これまでの競技主体のリーグ形成から、クラブ経営にしっかり軸足を置いたスポーツビジネスとしての基盤構築にも傾注していく中で、「NBAに次ぐ世界第2位のリーグ」としてファンの皆さん、選手に認めてもらえる位置づけに向けた挑戦が始まります。
たやすい挑戦ではありませんが、選手にとって、単なる経済的な理由だけではなく、キャリア設計の中でBリーグが中心的な位置づけになるように、そして国内はもとより、海外のファン、投資家、事業家にとっても魅力的なリーグであるように、特に首都・東京にフランチャイズを置くクラブとして、対外発信、事業規模・内容でも、他の目標となれるよう精進していきたいです。
──リーグ、クラブとして、課題と感じていることはありますか?
課題というか、注力分野は育成組織の充実です。
サッカーで世界で戦える選手の輩出がこれほどの規模になったのは、Jリーグの育成組織の充実と経営資源の弛まぬ投下によるものと認識しています。一時期ではなく継続して育成年代の成長に寄与することで、クラブの戦力向上と日本代表への大きな貢献となります。
Bリーグ全体としては、育成カテゴリーへの経営資源投下がままならない事情を抱えるクラブも多く、将来への投資がまだまだ脆弱です。JBA(日本バスケットボール協会)、Bリーグも過去と比べると相当力を入れて推進していますので、各クラブも未来作りのため、育成カテゴリーの強化に注力が必要です。
選手絶賛の「楽屋」。設備に込めた想い
──新アリーナはもちろん、選手・チームにとっても待ち望んでいたものだと思います。一体経営のイメージである歌舞伎の役者と舞台の関係性で言うと「楽屋」にあたるロッカールーム、クラブハウスもとても充実したもので、練習場・トレーニングルームはもちろん、酸素ルームや仮眠室、温冷浴設備やハイドロセラピープールまで使いやすく整備されています。
チームの司令塔、テーブス海選手が「全てがナンバーワン」とコメントし、キャプテンのザック・バランスキー選手は「これまでのアリーナや練習場もそれぞれ素晴らしかったが、このアリーナは選手寿命に影響する設備も整い、選手にとって最高の環境。リラックスして試合に臨める」とおっしゃっていました。どのような考えで設計しましたか?
試合以外でのストレスをできる限り軽減させたい、選手生命が一日でも長くなるようにとの思いを込めて、体のメインテナンスに関する施設を充実させました。
クラブの一員であることが喜び、誇りとなるような雰囲気を醸成したい。施設はそのための起爆剤です。
プロでいられる期間は人生の長さからすると非常に短いかもしれませんが、一方でその貴重な時間をバスケのプロ選手、コーチ、スタッフとして挑戦する人たちに最高の舞台と楽屋を用意し、悔いのないプレー、仕事をしてほしいと願っています。
また、これまで練習場とオフィスが離れており、お互いが必死に練習したり働いたりしている姿を見ることはありませんでした。一緒になって互いの理解を深めることで、大きな相乗効果を生み出すと思っています。
──それでは最後の最後に「今シーズンの優勝」について、お聞かせください。
Bリーグ開幕10周年、そして念願のMy HOMEで戦う記念のシーズンに、6シーズン遠ざかっているBリーグ年間王者を奪還したい。
また、今季はEASL(東アジアスーパーリーグ)にも参戦していますので、併せてチャンピオンを獲得して、日本からアジア、世界へという目標に向かって、アジアでの存在感も上げていきたいと思っています。
林 邦彦◎トヨタアルバルク東京代表取締役社長。1964年10月東京生まれ。同志社大学文学部卒業後、三井物産入社。建材、不動産、サービス事業等に携わり、ドイツ、ベトナム駐在から帰国後、2012年5月に三井物産フォーサイトへ出向。広島東洋カープ、中日ドラゴンズのスポンサーシップ・マーケティング業務に従事する。2016年、Bリーグ開幕に向け設立されたトヨタアルバルク東京への出資に伴い要請を受け、現職就任。


