普通こういうコンペをやると、メインアリーナの設計に集約されるわけですけれど、鹿島さんの提案は、アリーナ空間に開かれたテラススイートだったり、屋外の2つのパークにしても、イベントがない日はオープンスペースにして* 地域の人たちが往来して触れ合えるようにしたりと、日本のカルチャーからすると非常にオープンなものだったんです。
このプライベートな空間にパブリックな部分を入れるという設計は非常に面白いなと。
アリーナの中に入らないと交流できないのではなく、パークから眺める景色はなかなかいいので、そこでコーヒーでも飲んでみるか、というふうに、地域の方たちの憩いの場になるといった地域共生のコンセプト設計は、我々のこれからの活動にすごく合ってるなと感じて、選定させていただきました。
* 訂正)記事初出時、「公開空地にして」としておりましたが誤りでした。お詫びして訂正いたします。
──林社長は国内外のアリーナ視察・訪問はもちろんのこと、プロ野球球団のスポンサーシップ・マーケティング経験もお持ちですし、アリーナ事業部の林(洋輔)部長は米4大スポーツを中心に、33ヵ所もの観戦・視察経験がおありだそうですね。特に意識したスタジアム・アリーナやポイントはありますか?
コロナ前にアメリカのアリーナに視察に行った時、とにかく大きいということ、インドアなのにスタジアムぐらいの迫力があったことが印象的でした。
居心地の良さやビジョンの大きさなども含め、そういった規模感が自分たちのアリーナにも絶対必須だと感じました。
あとはホスピタリティ。当時はまだ沖縄アリーナもなく、日本にホスピタリティがしっかりしているアリーナは一つもなかったですから。
特にアメリカのエアラインが、ホスピタリティが充実しているラウンジにマイレージプログラムのお客様を招待していて、選手たちがそのラウンジの横を通って入場していく光景がとても衝撃的で、我々のアリーナにもプレイヤーズラウンジというスペースを作りました。
──特にプレシーズンゲームから正式開業日にかけて、林部長を中心に観客の流れや表情、ビジョンの表示や演出、SNS上の反応まで、さまざまな点をくまなくチェックしていました。短い間でいくつもの細かい「改善」が行なわれていましたが、発見や課題はありましたか?
大きなトラブルなく、割とうまくいったんじゃないかなと思います。
ナイトゲームのハーフタイム時の飲食店舗の待機列がスムーズに流れるようにするなどの改善点はまだありますが、設備面も含め、クリティカルな問題はありませんでした。
サステナビリティがこんなにも楽しい理由
──「サステナビリティ」に関しても、国際的な建築物などの環境性能評価認証システムであるLEED認証* ゴールドの取得(予定)や再生可能エネルギーの100%使用、ゴミの全量リサイクルといった取り組みにとても強い意志を感じます。なぜここまで力を入れているのでしょうか?* Leadership in Energy and Environmental Design。非営利団体USGBC(U.S. Green Building Council)が開発、運用し、GBCI(Green Business Certification Inc.)が認証審査を行う環境性能評価システム
このアリーナから色々な発信をしていくと謳っている以上、世界レベルで環境問題対策をしていかなくてはならないと言っているときに、チームが強いぞとか素晴らしいアリーナだぞということの前に、一番発信しなければいけないことがあるだろうと。
環境負荷への対策にとどまらず、プラスになることをやっていくことは使命だというふうに本心で思っています。
また、環境対策だけでなく、建物としてもサステナブルでありたい。10年経った時に相当価値が下がったなんてことにならないように、いつでもフレッシュな気持ちで使えるようにアップデートしていきたいと考えています。
──例えば、ゴミの分別はもちろんのこと、紙コップまでも洗浄・回収する徹底ぶりです。ゴミ箱のデザインも工夫されていて、皆さまが面倒がる様子はさほどなく、むしろ楽しんでいらっしゃる感じもありました。実はそう簡単なことではないと思いますが、こうした仕組みのカギの一つ、パートナー企業との協力関係について、聞かせてください。
そういった意識の高いパートナーさんとやっていこうと、2021年から「ALVARK Will」という社会的責任プロジェクトを続けています。
1社ではそれほどの大きな波及力はないかもしれないですけど、2社3社で力を合わせて、そして我々の発信力をぜひ使ってもらいたいと集まっていただいています。
あとは、やはりもうゴミの分別などは当たり前だという社会になっているので、我々が今やっていることは普通のことだと思っていますし、大きな負荷もかかっていないというふうに思っています。
●スポンサー収入への影響は?
──新アリーナは、収入割合の多くを占める「スポンサー収入」への影響も大きいと思いますが、変化や今後の目標はありますか? すでにパートナ社数は127社(2025年5月末時点)にのぼり、その収入はBリーグクラブの中でもトップで、以前には「特定の分野、企業を絞って注力するのではなく、総合力で勝負」といったコメントもありました。
新アリーナで、先ほどからお話しているようなことをやったからスポンサー収入が倍増したとかいうことは全くなくて、どちらかというと、やらなかったら減るという考えです。
一般社会の中でいまや義務とも言えるような活動を、意識は高くとも、なかなか規模感や発信力がないといったところと一緒に推進していきたい。こうした活動をどうやって広げていくか、厚みを増していくかということが非常に重要で、そうしたコーディネーター役を我々が担えればと思っています。


