●役者と舞台で魅了する「歌舞伎」からイメージ──アリーナ、エンタメの可能性
──クラブとアリーナの一体経営のシナジーを、役者と舞台で観客を魅了する「歌舞伎」からイメージし、新たな観戦体験を目指してきました。どのような考えからでしょうか?
テレビをつけたら必ず巨人戦がやっているというような、スポーツが娯楽の中心にあった時代ではなくなってきて、スタジアムやアリーナに来てもらうことも試合一本ではなかなか難しくなってきたんですよね。
そこでスタジアム・グルメが出てきて、またさらに進歩した試合以外の観戦体験を提供することで、興味のない人にも球場に来てもらえるような仕掛けをしてきたと。
その先駆けは、広島のマツダスタジアムだったと私は思っています。
自分自身携わったということもあり、この経験から、バスケに興味がない人にも、食事をしたり、雰囲気の良いラウンジやパークがあって楽しかったから、また来ようと言っていただく。そして、そうしたきっかけでバスケを見て、面白さを知っていただくというような、コアファンでない方にも幅広く来ていただくための仕掛けが「多様な観戦体験」だと考え、挑戦してきました。
アリーナに行けばいくつもの楽しみが味わえるということが、これからのエンターテインメントにおいて、非常に可能性があるのではないかと感じています。
●ターゲットゾーンを逃さない設計。スイートルームはほぼ完売
──席のバリエーションも、ファミリールームやテラススイートなど、豊富ですね。
ファミリールームは、バスケのターゲットゾーンである30代ぐらいの女性が、お子さんと一緒に来場することに対しての大きな阻害要因を払拭しようと設備を整えました。
観戦席をお子さんと寄り添って見られるベンチシートにしたり、そのすぐ裏側に安心して遊べるプレイルームを設置したりといった工夫をしました。
スイートルームに関しては、千葉ジェッツさんのららアリーナでもそうですけれど、割とニーズは高かったというふうに思っているんですね。
ちょっと高級な食事をしながら、また時にはスポーツの話題で場を和ませながら会話ができる、ビジネスでも使える場所が必要だと考えて作りました。
まずはパートナー企業からセールスしたのですが、臨海副都心という立地もあって、すでにほぼ完売の状態になっています。
──ちなみにプレシーズンゲームでは、林社長も観客席で、全身でゲームを楽しんでいました。新アリーナでの観戦はいかがでしたか?
観客席について、クッション性や革張りがいいねとすごく言ってもらえているんですけれど、私の中での一番のポイントは、上下左右、席の設置の角度なんですよ。
コートを間近に感じつつも、前の席の方の頭などが邪魔にならないように。そして、スクエアやオクタゴン(八角形)型、U字型のアリーナが多い中、我々のアリーナでは全ての座席からコートが見やすい「オーバル(楕円)型」を採用したわけですが、さらに角度を細かく工夫し、コーナーも含めてどこの席でもほぼコートに正対して観戦できる設計にしました。
2時間ほどのゲームを体をひねって観戦するとなると、体が痛くなってしまいますからね。
プレシーズンゲームでどのくらい自分がはしゃいでいたのかは、自分では認識できていないんですけれど...。怪我で選手を欠く中であれだけの多くのお客様に来ていただいて、選手、スタッフ共々とても感謝していました。そして、これからシーズン始まるんだという気持ちが入っていたゲームだったので、多少そうした想いが出たのかなと。
音楽ライブにはこう挑む 〜デメリットもアイデア次第でユニークなライブ体験に
──観客席からの景色もそうですが、まずメインゲートから入場して数秒で、すぐ目の前に広がるコートや観客席、そして大きなセンターハングビジョンと2層のリボンビジョンに圧倒されますね。多くの皆さまが「(気分が)上がる」「映える」といった声をあげていらっしゃいました。
一気にエンターテインメント空間に惹き込まれるような没入感が印象的ですが、一方で、そうした観客席や超大型ビジョン、観客席中央に設置されたスイートルームなどは、音楽ライブ会場としては最適な造りとは言えません。どのような意思決定でしたか?
音楽ライブを軽視しているわけではないんですけど、もともとこのアリーナを建てるきっかけである、アルバルク東京のホームアリーナということを中心に考えました。
ただ中心と言っても年間30試合しかなく、残りの330日強のイベント、ビジネスを犠牲にするのかと非常に悩みました。


