ベネット博士は、可能性が高いのは、ロシアが潜伏工作員を利用して、他国の原子力発電所を含む重要施設を国の内部から破壊する作戦だと指摘する。潜伏工作員とは、外国のパスポート(旅券)を持ち、精巧な偽装工作を駆使して西側諸国に潜入したロシア大統領府(クレムリン)の情報工作員だ。
「ロシアは10年以上(現在のウクライナ侵攻は、2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合を起源とする)の年月をかけて、外国の原子力発電所や火力発電所、空港、港湾、通信拠点といった重要施設に潜伏工作員を送り込んできた。ロシアは敵対的と見なすあらゆる国家に潜伏工作員を配置している可能性が高い。当然、NATO加盟国も含まれる。つまりロシアはわれわれより先行しているのだ。自由で民主的な国に潜伏することは、ロシアのような権威主義国家に侵入するより容易だ。前者は開放的だが、後者は閉鎖的だからだ」
ベネット博士は、英国が2023年に制定した国家安全保障法は、増大しつつあるこの脅威に対する遅ればせながらの対応だと指摘する。この法律は、スパイ活動や破壊工作、外国勢力を代表する者による国家安全保障への脅威に対処することを目的としており、ソビエト時代に国家保安委員会(KGB)の工作員だったプーチン大統領が英国に配置した潜伏工作員も対象に含まれる。
KGB時代のプーチン大統領は東ドイツに駐在中、民主化を求めるデモ隊がベルリンの壁を破壊し、バリケードの背後に閉じ込められていた数百万人の東ドイツ人を解放する様子を苦渋の表情で見守った。この民主化運動が東欧を駆け巡り、共産圏の支配者がドミノ倒しのように倒れていく中、ソビエト連邦自体が崩壊すると、これら東欧の衛星国は新たな軌道へと移行し、NATOに取り込まれていった。プーチン大統領はそれ以来、ロシアの戦車と軍隊を東欧や旧ソ連圏に派遣してでも、時間を巻き戻してソビエト帝国を復活させることに熱狂的な情熱を燃やしてきた。
ベネット博士は、プーチン大統領の潜入部隊が外国の原子力発電所や警察、消防、救助隊、防衛関連企業などを破壊すべく活動する一方で、次の世界大戦が10年以内に勃発すると予測している。
英ロンドン大学キングスカレッジでロシアの情報活動について研究するエレナ・グロスフェルド博士候補は、スパイ活動と破壊工作の達人であるプーチン大統領はウラジーミル・レーニンやヨシフ・スターリンといったソ連の先達と同様、既に20年以上も権力を握っており、西側諸国に潜伏工作員を送り込むには十分な時間があったと指摘する。
同博士候補は、ロシアの最高位の潜伏工作員は、スパイの一類型に過ぎないと語る。その他の工作員には、プーチン政権発足後の知識人や技術者の大量流出時に採用されたロシア人や、ロシアの情報機関への協力を巨額の賄賂で買収された外国人が含まれる。欧州での複数の破壊工作作戦で、ロシア情報機関は多様な工作員を活用してきた。だが、プーチン大統領が欧米に配置した影の情報部隊の規模は推計困難だという。
たとえごく少数の工作員が欧米の原子力発電所の潜入に成功しただけでも、戦争勃発時にこの部隊が施設を破壊する可能性が生じる。グロスフェルド博士候補は「敵対国の社会基盤の破壊は、ロシア軍と情報機関の戦略方針に沿ったものだ」と指摘。現在のウクライナであれ、ロシアの将来の侵略対象国であれ、「原子力発電所の破壊はロシアの軍事計画に利用される恐れがある。例えば、敵の侵入を阻止する領域の創出といった目的のためだ」と説明した。


