欧州

2025.10.27 11:30

外国に潜伏するロシアの工作員、原子力発電所の破壊が目的か

ウクライナ南部ザポリッジャ原子力発電所で確認された火災。2024年8月11日撮影(Ukrainian Presidency / Handout/Anadolu via Getty Images)

ウクライナ南部ザポリッジャ原子力発電所で確認された火災。2024年8月11日撮影(Ukrainian Presidency / Handout/Anadolu via Getty Images)

ロシア軍によるウクライナの原子力発電所への執拗な攻撃は、将来、北大西洋条約機構(NATO)との軍事衝突が起きた際にロシアが同様の戦術を取ることを予兆している。ロシアの軍事戦略に詳しい英国の専門家が警告した。

ロシア軍はウクライナへの全面侵攻を開始すると、同国の原子力発電所2カ所を占拠した。極めてリスクの高い原子力発電所が武力で占拠されたのは史上初の出来事だった。ロシア軍は両拠点の周辺で無人機(ドローン)攻撃を含む危険な軍事演習を継続している。

筆者の取材に応じた英レスター大学のサイモン・ベネット博士は、ウクライナ南部ザポリッジャ原子力発電所を支配下に置くロシア軍が同施設を世界最大の「汚染された爆弾」へと変えるため、仕掛け爆弾を設置する可能性があると指摘する。同博士は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの征服に失敗した場合、ザポリッジャ原子力発電所の6基の原子炉それぞれを地雷で囲み、遠隔操作で起爆させ、欧州上空に広がる放射性物質の雲を生み出す可能性があると警告した。

共同でウクライナ対策本部を設置し、遠隔監視を実施している米エネルギー省と米国家核安全保障局(NNSA)は、ロシア軍が2022年3月4日にザポリッジャ原子力発電所を占拠して以降、ロシア人が同発電所を支配していると報告した。「ロシアがザポリッジャ原子力発電所周辺に軍事装備や爆発性地雷を配置したことで、同発電所の保安や操業に当たるウクライナ人職員の生命や周辺地域の安全が脅かされている。発電所周辺では複数の地雷が爆発しており、動物による誤作動も発生している。これにより現場は危険な状況に陥っている」

ベネット博士は、ロシアが大量のウラン資源が保管されている同原子力発電所を武力占拠したことで、同国はウクライナだけでなく欧州全体に対して「核恐喝」を行うことができるようになったと警告した。

同博士は、1986年に発生したウクライナ北部チョルノブイリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故では、放射性物質の雲が国境を越えて移動したと指摘する。「チョルノブイリの放射性物質を含んだ雲は英国のカンブリア州まで到達し、農地が汚染された」。これは、ロシア軍がウクライナの原子力発電所を破壊し、たとえ1基の原子炉でも炉心溶融(メルトダウン)を引き起こせば、ロシアを含む欧州全体に極度の危険をもたらすことを意味する。ベネット博士は「ウクライナの原子力発電所のいずれかが攻撃を受けた場合、たとえ国の最西端にある施設であっても、西風が持続的に吹けば、放射性物質の噴煙がロシアの中央部に到達する可能性が十分にある」と強調した。

皮肉なことに、一進一退を続ける遅々とした戦況により、プーチン大統領がザポリッジャ原子力発電所を巨大な放射性爆弾に変えることを阻止できるかもしれない。反対に、戦況が逆転し、ロシア軍がウクライナから駆逐される事態になれば、プーチン大統領は原子力発電所の破壊によって生じる放射性の雲でウクライナを覆い尽くす選択をし得る。

ベネット博士はこう説明する。「もしプーチン大統領が追い詰められ、国内で動乱に見舞われた場合(政権追放の可能性が高まる)、同大統領は1945年にナチスドイツの指導者アドルフ・ヒトラーが悪名高いネロ指令を発布した時のように、男らしさと悪意を最後に示す行為として、自国民を含むすべてを破壊することを決意するかもしれない」

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翻訳・編集=安藤清香

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