マネー

2025.10.30 16:00

ベルナール・アルノーにマードック、「大富豪の持株会社」を標的に繁栄する英アクティビストの正体

Shutterstock.com

Shutterstock.com

英国のある投資信託は、興味深い手法を用いている。ほかの投資信託や持株会社の株式を、清算価値(企業を解散または清算した場合に得られる価値)を下回る価格で買い集めるのだ。

英国ロンドン金融街の投資信託業界は、弱肉強食だ。だからこそ、不活発な企業経営を揺さぶる「アクティビスト」投資家ダニエル・ローブは、別のアクティビストから攻撃を受ける羽目になった。

ローブは8月14日の株主投票を経て、ロンドンで上場している自身の投資信託と、自身が支配するオフショア保険会社の合併を強行した。しかし、この争いから無傷で抜け出すことはできなかった。ローブは、反対派の株主に対して、予想以上の金額を支払う羽目になったのだ。

反対派のリーダーは、ジョー・バウエルンフロイント。現在53歳の物静かな英国人ポートフォリオマネージャーで、少々変わった専門分野を持つ。同氏は、ビリオネアたち(正確には、その持株会社)を追い続けている。その手段は、英国に本拠を置く、16億ドル(約2440億円)規模の投資信託、AVI Global Trust (AVIグローバル・トラスト)だ。

AVIグローバル・トラストは、設立が1889年という由緒あるクローズドエンド型ファンド(発行者が発行証券を買い戻すことを保証していない投資信託)で、もともとは南アフリカ、トランスバール地方のダイヤモンド資源への投機目的で創設された。そしてここ数十年で、バリュー投資家(企業の本来の価値に比べて株価が割安な銘柄を探して投資する投資家)としての新たな役割を確立した。

AVIは、清算価値に対して割安な価格で取引されている企業の株式を購入する。そうした企業の一部は、資産を豊富に持つ事業会社で、日本ではそういう企業が見つけやすい(AVIは20年以上前から、さまざまな日本株に盛んに投資している)。しかし、AVIが所有する株式の大半は、ほかの投資会社か、富裕層が支配する持株会社のものだ。

バウエルンフロイントの標的には、(フィアットとフェラーリで富を築いた)イタリアのアグネッリ家が支配する企業や、レオン・ブラックのApollo Global Management(アポロ・グローバル・マネジメント)、ベルギーのディエテラン家のSafelite(セーフライト)、フランスのヴァンサン・ボロレのVivendi(ヴィヴェンディ)、ベルナール・アルノーのLVMH、英国のケズウィック家のJardine Matheson(ジャーディン・マセソン)、マードック家のNews Corp(ニューズ・コープ)などが含まれている。

ほとんどの人は、ニューズ・コープをメディア企業と見なしているが、AVIは持株会社と位置付けている。最も価値のある保有資産は、ウォール・ストリート・ジャーナルと、オーストラリアの不動産会社REAの株式61%だ。バウエルンフロイントによれば、ニューズ・コープの株価は、清算価値に対して41%割安で取引されているという。

こうした「特売品探し」は報われている。AVIが40年前、当時British Empire Trust(ブリティッシュ・エンパイア・トラスト)と呼ばれていた投資信託の運用契約を獲得して以来、この投資信託はポンド建てで年率11.8%の複利リターンを達成している。これは、MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)の全世界株式インデックスACWI(All Country World Index)のリターンを2.4ポイント上回る。

次ページ > なぜ他の投資家は価値を見出せないのか?

翻訳=米井香織/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事