次は「境界線ゼロ」を目指して
人単合一モデル自体も、進化を続けている。これまで張は、ユーザーとの距離をゼロにすることを掲げてきたが、これからは「境界線をゼロにする」ことを目指す。一人ひとりの自主性を尊重するだけでなく、他人を巻き込んでいく仕組みをつくるという。
「IoT時代に求められていることは、ひとつの企業を超えて、エコシステム全体で境界線のないものにすることです。今後、どれくらいの時間がかかわるかわかりませんが、これは大変な作業だと思っています」
人単合一の理念につながる最初の萌芽は、ハイアールの創業期にあった。小さな冷蔵庫工場に過ぎなかったハイアールの名を、中国国内で一躍有名にしたあるエピソードだ。1985年のある日、購入した冷蔵庫の傷に不満を抱えた客がその冷蔵庫を工場にもち込んで張に見せた。張は代わりの製品を探す過程で400台の在庫のうち、品質に問題のある冷蔵庫が76台も含まれていることを発見した。
「『不良品はあって当たり前』という考え方を根本的に変えようと思いました」。張は76台の冷蔵庫をそれをつくった従業員に大きなハンマーでたたき壊すことを命じた。76台の冷蔵庫は、張が気づかなければ新品として売り出されていたはずのものだった。この出来事は、世間には「品質を大事にするハイアール」という印象を与え、従業員にとっては品質を他人事ではなく自らの問題としてとらえるきっかけとなった。
実は40年たった今でも、この「不良品冷蔵庫の破壊」は行われている。この行為には「物事を転覆せよ」というメッセージが込められていると張は言う。転覆するものは3つだ。ひとつ目の転覆は、古いものを壊し、新しい製品やブランドをつくり出すということ。ふたつ目は、階級性を壊して従業員一人ひとりが自主性をもつこと。3つ目は、タグ(看板)を壊して新しいエコシステムを構築することだ。
あくまでも象徴的な儀式として執り行われていると思いきや、張はきっぱりこれを否定した。
「これは象徴とか、儀式ではありません。企業の文化として受け継いでいるのです。一人ひとりが永遠に自分自身に向き合い、新しいことにチャレンジする。そのような果敢な精神を大事にしているのです」
40年にわたりトップとして組織を率い、小さな冷蔵庫工場を世界的な企業に育て上げた張。これまで自らの意思決定に迷うことはなかったのだろうか。その疑問をぶつけてみると、「何度も行き詰まりを感じたことがありましたよ」と笑いながら話した。


