経営・戦略

2025.11.05 13:30

稲盛和夫も惹きつけた、ハイアール創業者に学ぶ経営モデル「人単合一」の本質

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CEOの役割は「メカニズムと場づくり」

では、ハイアールのような企業では、CEOの役割とはなんなのか。張は「とても重要な問題」と前置きしたうえで、次のように語った。

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「従来のCEOは、戦略を立て、計画し、指示を出すことが求められていました。それはCEOが絶対的に多くの情報をもっていたからです。ところが現在、情報化が進み、CEOと従業員がもつ情報量の差はなくなってきています。この時代にCEOがすべきことは、メカニズムやプラットフォームをつくることです。従業員が最大限その才能を発揮できるような場を提供してあげること。ユーザーとより密接な関係がもてるような環境をつくってあげることが求められています」

逆の言い方をすれば、人単合一を実践すれば従業員一人ひとりが必ず才能を発揮する機会があり、もし仮に誰かが成長できなかったとすれば、それは 従業員個人の責任ではなく「CEOの責任」というわけだ。中国春秋時代の思想家・老子は「最高のリーダーはその存在さえ意識されない」と説いたとされる。張、そしてハイアールが理想とするCEOはこのような姿だ。

アメーバ経営とのふたつの違い

「経営の神様」と称される稲盛和夫も人単合一に興味をもったひとりだ。稲盛は11年、青島のハイアール本社を訪問し、自身が提唱した「アメーバ経営」と人単合一の違いを張に問うた。アメーバ経営は、組織を独立採算で運営する小集団(アメーバ)に分割し、各リーダーに経営者意識を持たせるとともに、全従業員が経営に参加することを目指すモデルだ。

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張はふたつの大きな違いがあると答えた。

ひとつ目は、アメーバには会社が決めたリーダーが存在するのに対し、ハイアールのMEは自主性を重視しリーダーを決めることを特にしていないこと。 ふたつ目は、アメーバが改善を重視するのに対し、人単合一はイノベーションを重視していることだ。

稲盛と張の議論は、従業員のインセンティブをどう考えるかにも及んだという。稲盛は精神的なインセンティブを重視し「褒めたたえることが重要だ」 と語った。これに対し張は、「それは稲盛先生だからできること。私は従業員の価値を利益の分配によって報いたいと思っている」と応じたという。
 
そもそもハイアールは、創業期に日本の生産管理やマネジメントの手法を取り入れて成長した。トヨタ自動車の「ジャストインタイム」などはその代表例だ。一方、時代が工業化社会から情報化社会に移り変わった今、日本企業にも「新しいモデル」が必要だと張は考えている。「80年代の日本の管理モデルは、世界的に見ても先進的なものでした。これが日本の集団や協調性を重んじる文化と噛み合って非常に大きな成果を引き出していたのです。終身雇用や年功序列も、当時は優れた制度でした。しかし、現代ではこれが従業員の創造性を抑制し、企業の発展を阻害する要因になっています。まずは上司の言うことではなく、ユーザーの言うことを聞いてみてはどうでしょうか。そうすればおのずと正しい行動ができるでしょう」。

KEYWORD 03|アメーバ経営
京セラの創業者である稲盛和夫が考案した経営モデル。大きな組織を、市場に直結した独立採算制で運営する小集団に分け、リーダーを任命して、共同経営のようなかたちで会社を経営する。リーダーは小さな組織の経営者として、上司の承認を得ながら自らの経営計画を立て、実行する。経験は短くても経営者意識をもったリーダーを育てることができる。同時に、全従業員が目標達成に向けて力を集結する「全員参加経営」を実現できる。

KEYWORD 04|ジャストインタイム
「必要なものを、必要な時に、必要なだけつくる」というトヨタ自動車の生産方式。創業者の豊田喜一郎が提唱した。すべての工場とその生産工程を流れるようにつなげる「生産工程の同期化」をコンセプトとしている。

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文=中居広起 写真=熊谷勇樹

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