人単合一モデル3つのポイント
「人単合一が従来の経営モデルと異なるポイントは大きく3つある」と張は強調する。
ひとつ目は、「従業員の価値の最大化」だ。「これまでの企業は、株主の価値を優先し、これを最大化することが求められてきました。人単合一は従業員一人ひとりの価値を最大限発揮させることを目的としています」。
ふたつ目は、「ユーザーとの距離をゼロにする」こと。「従来のメーカーは販売チャネルを挟むことで、ユーザーとの距離が遠くなりがちでした。人単合一はユーザーとの距離をゼロにすることでユーザーの価値を最大化することを目指します」。
3つ目は「報酬制度」だ。「多くの企業では従業員のポジションに見合った給与が支払われています。人単合一は従業員一人ひとりの個性を尊重してその価値を認め、かつ、最大限に引き出したうえで、その価値に見合った報酬が支払われるのです」。
ハイアールに人単合一を導入した張は、従業員の自主性を引き出すため、当時1万2000人いた中間管理職のポジションを廃止した。すべての従業員は、社内で新たな事業を起こすか、会社から立ち去るかを選ばなければならなかった。指示を出す上司がいなくなったなかで、事業を起こすために、従業員たちはユーザーの声に耳を傾けるようになった。ユーザーとの距離がゼロになったのだ。
人単合一の導入によって、ハイアールは大企業病を克服した。2018年には、米フォーチュン誌が世界中の企業を対象に行っている総収益ランキング「フォーチュン・グローバル500」に初めてランクイン。そこから7年間でさらに100位以上順位を上げ、25年には390位となっている(ランクインしたのは、家電事業を担うハイアールスマートホーム)。
全員に求められる「起業家精神」
ハイアールではすべての従業員が起業家の精神をもつことを求められる。現在、約13万人の従業員を抱えるハイアールには、「マイクロ・エンタープライズ(ME)」と呼ばれる小規模事業体が4000以上も存在する。このMEは誰かの指揮の下ではなく自律的に業務にあたり、新たな事業に挑戦する。MEには決定権、人事権、給与決定権が与えられている。一方で、6 カ月間で価値を提供できなければそのMEは解散となるため、従業員たちは必死だ。
研究開発は社内ではなく現場で行われる。ユーザーのもとに足を運び、そのニーズをくみ取るところから設計やデザインが始まるのだ。部品や原材料の購入などすべてのプロセスに上司の承認を得る必要はなく、開発のスピードは格段に速い。新製品はユーザーの要望から生まれるため、発売の前にすでに多くの注文があり在庫を抱えることも少ない。
「起業家の精神をもっているからこそ、従業員がCEOでも気づかないようなチャンスを見つけてくるのです。新しい機会をとらえて、それが新しい事業分野となり、その会社を育てて上場する。こういう事例は社内にいくつもあります」
例えばある技術系の従業員は、病院で輸血用血液製剤のロスが多いという課題を発見し、高度な低温冷凍技術を血液製剤に活用することでコールドチェーンのネットワークを構築した。現在、ハイアールグループの売り上げの約30%は医療やバイオテクノロジーなど新たな分野が占めている。これらの家電以外の事業で、6社が上場しているという。
KEYWORD 02|マイクロ・エンタープライズ
職能横断で、商品の企画・開発・製造・販売部門などから社員が数人-数十人ずつ集まり、商品企画から収益までの責任をもつプロジェクトチーム。日本ではパナソニックなどが導入している。


