すべての従業員を起業家と位置づけ、ユーザー価値に最短距離で向き合う──。中国発の経営モデルが世界から注目を集めている。ハイアールグループ創業者兼名誉会長・張瑞敏にその本質を聞いた。
16年連続で大型家電のブランド別世界販売台数シェア1位に君臨する「家電の巨人」、ハイアール。中国山東省・青島の小さな冷蔵庫工場を、一代でグローバル企業に育て上げた、張瑞敏(チャン・ ルエミン)は、世界的な経営者のひとりとして知られている人物だ。この張が提唱し、ハイアールを成長に導いた経営モデルがある。「人単合一(レンダンへーイ)」と称される経営モデルだ。
この人単合一モデルは今、あらためて世界から注目を集めている。同モデルが評価され、張は2023年、世界で最も影響力のある経営思想家ランキング「Thinkers50」で「Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)」を受賞。ハーバード・ビ ジネススクールのケーススタディにも取り上げられ、学術的にも高く評価されている。張は25年7月、サンマリノ共和国において最高栄誉のひとつ「聖アガタ騎士団勲章」を授与された。そして、同月に日本でも開設された同モデルのリサーチセンターをはじめ、世界15カ所でリサーチセンターが設立されている。
従業員とユーザーを一致させる
「人単合一モデルはこれからのIoT時代にふさわしいモデルだ」
25年8月5日、東京で行われた人単合一モデルの日本のリサーチセンター設立を記念したイベントで、張は高らかに宣言した。会場には企業の経営者やマネジメントにかかわるビジネスパーソンが約100人詰めかけ、45分の熱弁に耳を傾けた。
すべての従業員を起業家と位置づけ、ユーザー価値に最短距離で向き合う──。人単合一モデルは、「ユーザーとの距離をゼロに、すべての決裁をゼロに、その結果在庫もゼロにする」という、これまでの常識を覆す経営モデルだ。張は今からちょうど20年前の05年9月、この理念を打ち出した。同モデルが生まれた背景を知るには、ハイアールの歴史を少し紐解く必要がある。
張がハイアールの前身である「青島冷蔵庫本工場」の工場長に就任したのは1984年。製造技術をドイツから、生産管理やマネジメントの手法を日本から導入し、倒産寸前だった町工場を立ち直らせ、急拡大させた。2000年代初頭にはすでに中国有数の企業に成長していたが、そのころハイアールが抱えていたのがいわゆる「大企業病」だった。組織が拡大していくと同時に、ユーザーとの距離がどんどん遠くなっていくという問題に直面していたのだ。
組織が大きくなれば、ポジションも増える。張は常々、多くの従業員が与えられたポジションに見合った実力を発揮できていないと感じていた。張自身は、工場の現場作業員からキャリアをスタートさせたが35歳の若さでたたき上げで工場長になった。その経験から、「従業員は誰しもなんらかの才能があり、必ずそれを引き出すことができる」と信じていた。「従業員には、お金よりも大事なものがあります。それは自分の才能が認められ、評価されることです。従業員の才能を引き出すのは、上司ではありません。それはユーザーです。従業員がユーザーに認められて、より大きな才能を開花させることができれば、会社にとっても大きな価値となると私は考えていました」(張)
「人」は従業員の価値、「単」はユーザーの価値だ。ふたつを一致させることで初めて、従業員、ユーザー、企業の価値が最大化するという人単合一モデルが誕生した。
KEYWORD 01|ハイアールグループ
中国山東省青島市に本社を置く世界的な家電メーカー。三洋電機や米GEの家電事業を買収し、「Haier」「AQUA」「GE Appliances」など複数のブランドを通じてグローバルに事業を展開する。英国の市場調査会社ユーロモニター・インターナショナルが発表する「Global Major Appliances 2024 Brand ランキング」で、16年連続で大型家電のブランド別世界販売台数シェア1位を達成。IoTを活用したスマートホームソリューションを提供し、近年では家電事業以外にも、医療やバイオテクノロジー、ロボット開発などに参入している。



