10月23日に行われたプロ野球ドラフト会議で、2球団から1位指名を受けた佐々木麟太郎(20)。現在、米国のスタンフォード大学2年に在籍する麟太郎選手の胸の内は——。
10月上旬、麟太郎選手はパロアルトの大学寮で、フォーブス ジャパンの単独インタビューに応じた。聞き手は、麟太郎選手を少年時代から見つめてきたスポーツライターの佐々木亨氏。「二十歳の現在地」、前・中・後編の最終回をお届けする。
人生はブーメラン
「内面は40歳ぐらいですかね」
ちょっと悪戯っぽく、それでいて照れくさそうに、佐々木麟太郎は自らの「現在地」を笑顔とともにそう語る。
今、どれだけやれているか。長期的な視点で物事を考え、「最後にハッピーでいられるかどうかが決まってくる」と麟太郎は言う。一瞬の欲望はある。遊びたい。買い物に出掛けたい。ただ、優先すべき思考は他にある。アメリカ・カリフォルニア州にある名門スタンフォード大学で、慌ただしくも刺激的な日々を送る麟太郎は、「いま」をこうも語るのだ。
「長期的に考えて判断した時に、『いま』やるべきことがあるんじゃないかと常に思っています。そこへのアプローチはできている」
恐れずに挑戦することが、麟太郎の原点だ。誰もがそうであるように、「リスク」への不安はある。
「高校卒業後の進路においては多くの選択肢がありました。その中で、一番リスクをともなった選択が『アメリカへ行く』というものだった。花巻東高校時代に見たことがない世界でしたし、間違いなくリスクのほうが大きかったと思います。でも、『リスク』を背負わずに、確かな『リターン』はない。ストレスをかけずに楽に生きて、最後にハッピーになれるかと言えば、そうではないと思っています」
麟太郎は「リターン」という言葉をよく口にする。
「自分がやったことは自分自身に返ってくる。人生は、ブーメランと一緒だと思うんです。そんな話を、小さい頃から『言われる』のと『言われない』のでは人生が大きく変わったと思います」
父から学んだ、人生を導く「戦略思考」
もう10年以上前のことだ。雪華が広がる花巻東高のグラウンドを訪れた私は、バックネット裏の部屋で坊主頭の小学生と出会った。10歳ほどの少年は、軟式用バットを入れた黒いリュックサックを背負っていた。目が合うと、彼は一瞬立ち止まってお辞儀をして、寒さが堪えるグラウンドへ無邪気に走っていった。
それが麟太郎との初めての出会いだったのだが、その頃から、彼は父親から多くの言葉をもらって育った。花巻東高野球部の監督でもある父・洋は、麟太郎にとって「尊敬する」存在だ。麟太郎は今でも父親を「監督さん」と呼ぶ。
「監督さんからは、野球の技術もそうですが、人間としての考え方、その生き方を教わってきました。人生に対する戦略と戦術。目標や成し遂げたいことに対して、目的を持って戦略を立ててやれるかどうかで人生は大きく変わる、と。その大事さも、監督さんから学んだことです」
すべての行動や練習に、価値と意義とリターンを考える。「思考が人生を導く」という言葉が、麟太郎の根底にはある。
「人生100年として、野球選手としての寿命は、頑張ってもその半分ぐらい。そこまで野球ができるかどうか。人は老いていき、寿命はある。でも、脳や思考の部分は、体の衰えと比べたら、間違いなく寿命は長いと思うんです。今は野球と学業の両方をやっていますが、老いてからも勉強はできる。そういう意味でも、考えること、思考の部分は、人生において大事にしていきたいと思っています」



