国内

2025.10.30 14:30

ライバルは「闇バイト」 。サンカクシャが挑む若者支援の新章創造

荒井佑介|サンカクシャ代表理事

荒井佑介|サンカクシャ代表理事

2025年10月25日発売のForbes JAPAN12月号第2特集は、「『ソーシャルR&D』を実装するNPO50」だ。気候変動、貧困問題、格差、分断、社会不安―。世界は複雑化し、社会課題は多様化し、深刻化している。2024年に続き、新時代を迎える非営利セクターの特集を行う。2025年のキーワードは「ソーシャルR&D」という造語だ。同特集では、NPOだからできる「ソーシャルR&D 50」と称して、50団体のリストも掲載。今後、経済社会における重要な役割を担うであろう「NPOの今、未来」とは。

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社会からの関心が集まらない時代から若者支援という課題に飛び込んだ。それこそが「NPOマインドの本質」と話す荒井に今、追い風が吹いている。


「東池袋駅から徒歩5分の一軒家。再開発エリアの一角に、親や身近な大人を頼れない15〜25歳ぐらいの若者支援を行うサンカクシャの複合型就労支援拠点「サンカクスクエア」がある。2019年設立のサンカクシャは、居場所事業、居住支援事業、就労支援事業の3つの柱で若者が孤立することなく、自立への第一歩を踏み出すための支援をしている。代表理事の荒井佑介は「豊島区、UR都市機構との『空き家活用×若者支援』における官民連携は大きな意味がある。このような座組みは見たことがない」と話す。

新拠点は、豊島区とUR都市機構が25年3月に締結した「豊島区における若者の居場所創出の促進に関する協定」の空き家活用事業者に採択されたことで、同年7月に開設。URが所有物件を豊島区へ無償貸借し、サンカクシャをはじめとするNPO団体に転貸借。豊島区からは空き家改修に係る経費の一部補助がでる。クラウドファンディングで集まった資金も加え、現在は、就労準備のための居場所や、若者と一緒に運営する飲食事業を展開し、冬には職業訓練を行う施設も開設される。「コンセプトは『しごとを通じて、まちの人とつながる』。居場所と就労の間の『就労準備』という支援が必要ではないかと感じ、『新しい若者の就労支援のモデル』をこの場で行い、全国にも知見や経験を広げられたら」(荒井)

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議員連盟設立を政策提言

最近、荒井は「闇バイトがライバル」と公言する。背景にあるのは、居場所がない若者が全国約22万人いると推計されること。そして孤独・孤立、貧困に陥ったときに、若者世代が受けられる公的支援、民間支援は少なく、社会に放り出された若者たちがSNSを通して闇バイト業者に流れ込んでいく構造だ。特殊詐欺による被害額は25年上半期で約597億円。だからこそ、「携帯代が払えない、明日の交通費がない若者が闇バイトなどに手を染めないよう、まずは安心して日払いができて、支援にもつながるプラットフォーム」を目指している。

そして、荒井は25年1月に政策提言も行い、成果も出始めた。「今でこそ若者支援に注目が集まっているが、いまだに『誰が、何をするのか』が不明瞭。こども家庭庁、厚労省、国交省、文科省、内閣府などの各省庁、各自治体の『間』に落ちていた。民間が政策提言しても包括的な若者支援の議論ができない」。そのような問題意識から超党派の議員連盟の設立などを提言。政策提言を契機に、議員、経済団体までを巻き込み議論を行っている。

「闇バイト」というライバルに勝つ──。15年近く前、「誰も知らない課題」だったころから若者支援にかかわってきた荒井の思いが今、次々と新たな動きを生み出している。


あらい・ゆうすけ◎サンカクシャ代表理事。2008年からホームレス支援に従事。若者ホームレスと出会ったことをきっかけに10年に子どもの貧困問題に取り組む。パソナを経て、19年にサンカクシャ設立。

文=山本智之 写真=若原瑞昌

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