国内

2025.10.29 13:30

公共訴訟のプロ集団LEDGE、たった1人の声でも社会を変えられる

亀石倫子|LEDGE代表理事

2025年10月25日発売のForbes JAPAN12月号第2特集は、「『ソーシャルR&D』を実装するNPO50」だ。気候変動、貧困問題、格差、分断、社会不安―。世界は複雑化し、社会課題は多様化し、深刻化している。2024年に続き、新時代を迎える非営利セクターの特集を行う。2025年のキーワードは「ソーシャルR&D」という造語だ。同特集では、NPOだからできる「ソーシャルR&D 50」と称して、50団体のリストも掲載。今後、経済社会における重要な役割を担うであろう「NPOの今、未来」とは。

身の回りで「おかしい」と思うこと。それを声にして、行動を起こし、社会全体を変えていく。司法の専門家が立ち上げた「ルールを変える」仕組み。


「どうして、選挙は18歳から投票できるようになったのに、立候補できるのは25歳、30歳のままなのだろう?」「どうして不妊手術が禁止されているのだろう?」。弁護士亀石倫子には、日々、いろいろな人と出会い、話を聞くなかで、「今まで当たり前だと思っていたことだが、よくよく考えると変だ」と、頭を揺さぶられるような感覚が訪れる。その感覚が、亀石を力強く前へ動かす動機となる。

亀石が代表理事を務めるLEDGEは「公共訴訟」を、日本で初めて組織的、戦略的にプロデュースする専門家集団だ。現行のおかしな制度やルールに疑問を投げかける裁判を国や自治体を相手に起こし、その裁判の結果が法律を変え、関係者をはじめとする国民全体がその利益を得ることを目指す。亀石のほか、谷口太規や井桁大介ら公共訴訟の実績をもつ弁護士を中心に2023年に活動をスタートし、現在立候補年齢引き下げ訴訟やレイシャル・プロファイリング、母体保護法に関する訴訟など、8つの訴訟が進行している。

「司法によって世の中が変えられる」

亀石がそう信じるのは、自身の刑事弁護人としての経験がある。12年、大阪のクラブが風営法(ダンス規制)で摘発された事件では最高裁で無罪判決を勝ち取り、全国的にも注目された。17年には令状なしでのGPS端末を使った監視捜査は違法とする判決、20年にはタトゥー彫師医師法違反事件で無罪判決(ともに最高裁)を導いた。

「社会のなかで、不合理なことや不公平なことがあって、それを変えたいと思ってもひとりでできることは限られていると思うかもしれない。でも司法であれば、たったひとりでも変えることができる」。多数派によってしか動かせない選挙を通じた政治とは別のルートがある、と亀石は語る。

根本的に「ルールを変える」インパクト

アメリカにはACLUという各州に支部をもつNGO団体があり、500人近くの専任弁護士と数千人のボランティア弁護士、リサーチャー、キャンペーンナーに支えられている。年間約580億円の予算は、ほぼすべて市民の寄付によって運営されている。

LEDGEはまず年間予算8,000 万円で専任の弁護士、リサーチャーらを確保し、5年で30件の訴訟をプロデュースすることを目指す。SNSのアルゴリズム問題、刑事司法など、日本は諸外国に比べて遅れている公共の課題も多い。

「根本的なルールを変えることでどのくらいの社会的インパクトがあるか、どれくらいの人が恩恵を受けられるか。それを基準に社会課題を扱いたい。逆に“大多数の賛同を得られるか”、ということにはこだわらない。“ルールが不当ならひとりでも変えられる”というところが司法の一番の存在意義だ」


かめいし・みちこ◎北海道出身。東京女子大学卒業後、一般企業へ。結婚で大阪に移住したのを機に弁護士を目指し、2005年大阪市立大学(現・大阪公立大学)法科大学院へ。09年大阪弁護士会に登録。「法律事務所エクラうめだ」所属。23年LEDGE代表理事に。

文=岩坪文子 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN 2025年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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