ビジネス

2015.09.09

MVNOで年商140億円 米Ultra Mobile社がグロース出来た理由

misokaco / Bigstock


「僕は自分と同じタイプの人が経営するレストランで食事したいとは思わない」
デビッド・グリックマンは彼の経営哲学を、そんな言葉で表現してみせる。彼は「スピードこそが最も大切だ」と考える経営者の一人だ。グリックマンは3つ企業の売上を、それぞれ1億ドル(約119億円)を越えるまでに成長させた人物だ。


直近で彼が立ち上げたスタートアップがMVNO回線を提供するUltra Mobileだ。同社はメキシコやインド出身の米国内の移民を顧客としている。同社は創業たった3年の2014年に1億1800万ドル(約140億円)の売上を達成した。

このような成長は偶然に達成できた訳ではない。グリックマンは目先の利潤を犠牲にして、規模を追求した。「数十万人以下のユーザーで利益をあげることは不可能だ。もし携帯電話ビジネスを行うのならば、規模の威力は途方もない。ビジネスの秘訣は一刻も速くユーザーを獲得することなんだ」

全ての業界がスピード重視という訳ではない。レストランの全てがマクドナルドを目指す訳ではない。しかし、成長が優先される業界においては、「そのビジョンを明確に持つことが重要だ」とグリックマンは語る。「自分自身と自分の会社を信じ、成長のために全てのことをやるんだ」

Ultra Mobile立ち上げにあたり、グリックマンはT-Mobileとの間に5000万ドル(約59億5000万円)分の回線販売契約を締結した。売上がその金額を超えない限り、彼らは資金を回収できない条件だ。「大きな賭けだったが、結果的には上手く行った」と彼は話している。

グレッグマンは生きるか死ぬかの決意でビジネスを運営し、それに加え、彼は自社の取り分を減らしてでも、利益の大半を販売業者や顧客に還元してきた。

Boost Mobileを傘下に持つSprintは、顧客一人当り月10ドルの利益を求めているが、彼は「そんな大きな利幅は必要無い。自分たちは可能な限り薄利で運営し、販売店には『うちの製品が最も利幅が大きい』と説明してきた。この業界では結局誰かが貧乏クジを引くことになるんだ」と述べている。

貧乏くじを引くのはUltra Mobileだ。同社は当面の利益は諦めて、規模の拡大を念頭に置く。グリックマンが携帯キャリアという怪物が寡頭政治を行う業界を選んだのは正解だった。VerizonやAT&Tを敵に回すことは普通は自殺行為だが、条件が折り合えば値引きも可能だ。Ultra Mobileは現在25000店舗で、年に100万枚のSIMカードを販売し、ユーザーが最も安く回線契約を行う手段として認知されている。

成長のためのもう1つの手段として、グレッグマンは「自社を実際よりも大きく見せることが大事だ」と述べる。これは彼が以前に立ち上げた企業、TelePacificでとった戦略だ。TelePacificは1998年に創業し、当時は独占状態にあった有線電話の交換機の分野に進出した。
「この会社が永遠に存続するように見せ、信頼を得る必要があった。同時に市場調査も行い、独占企業がどんなメッセージを発しているのを調べた。我々のマーケティング戦略は結果的に成功した」

長期で見れば、どんなビジネスであれ成長の鈍化が訪れる。しかし、グリックマンのUltra Mobileはまだまだこれからが成長の時期だ。彼は米国に4000万人居る移民たちを相手にし、今後は海外旅行者向けに安価なモバイル回線を提供していく。

グリックマンによると「Ultra Mobileは既に大手の通信企業から買収提案を受けている」とのこと。現在のところUltra MobileのMVNO事業パートナーはT-Mobileだ。

「成長が大事だというのはどんな企業についても言える訳ではない。それでも、スタートアップ企業を運営するのなら、大規模な成功を視野に入れることは大事だ。例えば食品関連の事業をやるなら、コカコーラを視野に入れ、国際的に販売を行う場合にはどのようになるかについて考えるべきだ」とグレッグマンは言う。

急激な成長は偶然から生まれるものではない。そこには、確かな意志が必要なのだ。

文=ブライアン·ソロモン(Forbes)/ 編集=上田裕資

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