公共に資するリーダーシップに必要な3つの要素
まずは「公共」とは何かを考えたい。 政治学者の齋藤純一は、「公共性」には三つの意味があると指摘している。それは、(1) 国家や政府に関わる公的な事柄(official)、(2) 特定の個人ではなく全ての人々に共通する事柄(common)、(3) 誰に対しても開かれている事柄(open)の三つである。 近年ではそれに加え、(4) 長い時間軸をとるということも考慮するべきであると主張している。目先の数年のことを考えるだけではなく、次の世代やその先まで考えてシステムを変えていくことが必要だと言う意味である。
私自身も、公教育に挑む中で「時代を超えて全ての人を包含していく(2, 4)」難しさを実感してきた。だから、「公共を考えるとは時間軸と空間軸を長く広くとるということであり、そこにいる人間の多様性を包含し続けること」ということを強調したい。そして「公共に資するリーダーシップ」とは、その中でビジョンを描き、現実に葛藤しながらも一歩ずつビジョンに近づいていく力だと思う。
そう定義したとき、「公共に資するリーダーシップ」に必要な要素は大きく分けて3つあると考える。1. システムリーダーシップ、2. オーセンティックリーダーシップとそのためのラディカルセルフケア、3. 最後に人々の声なき声を聞き続ける専門性である。詳しい言葉の定義は次の項から説明していくが、全ての要素が、世界と対話し、仲間と対話し、自己と対話・内省を繰り返す中で少しずつ進んでいくという共通したプロセスを持ち、さらに相互補完的な要素である。ここからはそれぞれの要件について、自分自身のケースを紹介しながら解説を試みたい。
1. グレートリーダーを手放した日 〜 システムリーダーシップの目覚め
公共に資するリーダーシップの1つ目の要素、「システムリーダーシップ」。それは自分自身のリーダーシップを磨くことだけでなく、自分が関わるシステム全体のリーダーシップの総量をあげることが肝要である、という考え方だ。自分がこの考え方に目覚めたきっかけとなる経験を紹介したい。
2018年、カンボジアの人身売買問題の減少に伴い、かものはしプロジェクトはカンボジアから撤退し、数年前から始めていたインドでの事業に集中することを決定した。それを受けて、自分自身はカンボジアに残って新しい団体を作り事業を続けることを決意した(その経緯については次項を参照のこと)。カンボジア人スタッフを全員集め、かものはしプロジェクトから独立して新しい団体を作ると発表したときのスタッフの愕然とした表情を今でも忘れることができない。「この団体はもうダメだ」と、その日のうちに半数のスタッフが転職活動を始めた部門もあった。国際NGOの本部が撤退し、ローカライズするというのはそれくらい難しいことであり、スタッフの混乱も仕方のないことであった。
一方、自分としては当時のスタッフたちと共に独立していくつもりで起業を決意したため、スタッフを何とか引き留めようと、独立のビジョンや戦略、進捗を共有するための「Hopeワークショップ」という名前の会議を四半期ごとに実施することにした。
しかしお恥ずかしい話、わずか2回目にして、私は朝起きられなくなってしまったのだ。正確には、目は覚めているがベッドから背中を離す力がどうしても湧いてこなかった。最終的には日本人のマネジャーの一人に部屋から引っ張り出され、ワークショップを何とかこなすことはできたが、その日の夜、マネジャー陣に囲まれ、一体何が自分に起きているのかを話さざるを得なくなった。


