米国のHRテック(人事ソフトウェア)市場で、巨大ユニコーン企業による覇権争いが激化している。企業の複雑な給与計算や従業員管理をSaaSで提供するこの分野は、大きな市場価値を持つ。未上場企業は調達評価額が実力の目安になりやすく、なかでも急成長するライバル、2016年創業のRippling(リップリング)と2019年創業のDeel(ディール)の対立は鮮明だ。そして両社は長年の確執を経て、2025年に互いを「企業スパイ行為」で訴える泥沼の法廷闘争に突入した。
この訴訟の最中、Deelが新たな資金調達を発表。評価額は173億ドル(約2.6兆円)に達し、宿敵Ripplingの評価額を2022年以来、初めて上回った。法廷闘争と市場評価が激しく交錯する中、両社の財務状況、ビリオネア創業者の資産、そして訴訟合戦の内幕を追う。
Deelが資金調達、評価額約2.6兆円となり、Ripplingを上回る
互いを企業スパイ行為で訴えた人事ソフトウェア系企業、RipplingとDeelの激しい対立は、未上場市場でも継続中だ。Deelは10月16日、リビットキャピタルやコーチュー、アンドリーセン・ホロウィッツから3億ドル(約456億円。1ドル=152円換算)を調達したと発表した。この資金調達によって、同社の評価額は173億ドル(約2.6兆円)に達し、2022年以来で初めてRipplingを上回った。また、この取引によりDeelの共同創業者のアレックス・ブアジズとショウ・ワンの資産はそれぞれ約5億ドル(約760億円)増えたと推計される。
創業者の資産は、Ripplingのコンラッドが上回る
それでも、個人の保有資産の点では、Ripplingの共同創業者のパーカー・コンラッドがDeelの2人を上回っている。彼の会社の持ち分の価値は今もDeelの創業者たちを10億ドル(約1520億円)以上上回っている。
資金調達はライバル企業との争いや訴訟費用とは無関係
Deelのアレックス・ブアジズCEOによれば、今回の資金調達はライバル企業との争いや訴訟費用とは無関係という。「Ripplingのことなんてまったく考えていない」と彼は語っている。ブアジズによると、リビットキャピタルとコーチュー(同社はRipplingにも出資している)は数週間前にDeelへの出資を持ちかけ、すぐに取引が成立したという。
Deelは、2025年に1億7000万〜2億ドル(約258億~約304億円)の利益を見込んでおり、今回の資金を使ってさらなる買収を進め、社内のソフトウェアを強化し、人工知能(AI)への投資を進める計画という。関係者によれば、同社の手元資金は現在およそ8億ドル(約1216億円)にのぼるとされる。
「もっと高い評価額で資金を集めることも可能だった」とブアジズは話す。「3社の非常に強力な投資家たちが、会社にとって有利な条件を提示してくれた。当社は黒字基調にあるため、買収の幅を大きく広げることも可能だ。新たな資金を手に入れるのは決して悪いことではない」。



