訴訟合戦が長期化した場合、高額な費用で資金浪費の懸念
今回の資金調達で両社の共同創業者たちは資産を増やしたものの、訴訟が長期化すれば、保有する資金の相当部分が高額な訴訟費用に消える可能性もある。両社の代理人を務めているのは、全米でも有数の高額な弁護士事務所だ。DeelとRipplingの対立はすでに数年にわたって公然化しており、互いを非難するブログ投稿を公開したり、レディットのフォーラム上で顧客を奪い合いながら相手を罵倒したりしてきた。この遺恨が決定的に表面化したのは今年3月、RipplingがDeelを提訴し、その1カ月後にDeelがRipplingを逆提訴したときだった。
Rippling側、Deelのスパイ行為とRICO法違反を主張
Ripplingは訴状の中で、「Deelがスパイを使って、当社の最も機密性の高い事業情報や営業秘密を組織的に盗み出した」と主張し、その過程で「組織犯罪影響腐敗防止法(RICO法)」にも違反したと訴えている。Ripplingの広報担当はフォーブスへの声明でこう述べた。「アレックス(ブアジズ)は個人的に、1日に何度も当社の顧客リストや製品ロードマップ、その他の営業秘密といった盗まれたデータの送信を指示し、受け取っていた。自身が雇ったスパイから1日返事がないと、WhatsAppで催促して情報の流れを絶やさないようにしていた。これはもはや執着に近く、犯罪的な窃盗行為にあたる」。
Deel側、不正アクセスによる模倣品開発と逆提訴
Deelは訴状の中で、「Ripplingによる違法かつ反競争的で名誉を毀損する行為を、もはや容認しない」と述べ、Ripplingが「欺瞞的取引慣行法(Deceptive Trade Practices Act)」に違反したと主張した。名誉毀損および営業誹謗を理由に民事上の請求を行っている。その一例として、Ripplingが「なりすまし行為によってDeelのシステムに不正アクセスし、データを盗み出して模倣製品を開発した」との疑いを挙げている。
両社の訴訟はいずれも民事事件であり、主な争点は損害賠償に関するものだ。Deelは失われたビジネス機会の損失だけでも「数億ドル(数百億円)規模」に上ると主張している。現時点では、どちらの企業にも刑事告発はなされていないが、米司法省(DOJ)が介入する可能性もある。Ripplingの広報担当は、Deelの主張について「でたらめな訴えだ」と述べ、これに対してDeelのブアジズは「根拠のない訴訟だ」と反論している。
両社の法廷闘争は継続、それぞれウェブサイトで逐一報告
両社の法廷闘争は現在も続いており、それぞれのウェブサイトで経過を逐一報告している。また、DeelがRipplingを相手取った訴訟では、Deel側がRipplingの代理人である法律事務所Quinn Emanuelと、著名弁護士アレックス・スピロの代理資格を認めるべきではないと主張した。その理由は、Deelが2023年に同事務所へ相談を行い、当時Ripplingに対する別件訴訟を検討していた際に自社の機密情報を共有していたためだ。
一方、Ripplingが原告となった訴訟では、Ripplingの最初の訴状に対する早期の異議申し立てをめぐる審理が12月に予定されている。
「特に心配はしていない」と語るのは、Deelの初期投資家の1人だ。彼は今回の資金調達を「上場前に正しいメッセージを市場へ送るための動き」と解釈している。「DeelとRipplingは非常に激しい競争関係にある。舞台裏で何が起きているのかを正確に把握するのは難しい」とも述べた。
ブアジズもまた、訴訟については詳細を語れないとしながらも「心配はしていない」と強調し、「私たちは市場でも勝つし、法廷でも勝つ」と語った。
AIブームの最中、HRテック分野も旺盛な投資意欲
どちらが勝者となるにせよ、ベンチャーキャピタルの関心がAIスタートアップに集中する現在、RipplingとDeelの今回の資金調達は、人事ソフトウェア分野に依然として旺盛な投資意欲があることを示している──たとえ、その利益の一部を弁護士たちが分け合うことになったとしても。


