国内

2025.10.28 13:30

抱撲が「復帰したい社会なのか」を問い続け「希望のまちづくり」を語る意味

奥田知志|抱樸 理事長/代表

奥田知志|抱樸 理事長/代表

2025年10月25日発売のForbes JAPAN12月号第2特集は、「『ソーシャルR&D』を実装するNPO50」だ。気候変動、貧困問題、格差、分断、社会不安―。世界は複雑化し、社会課題は多様化し、深刻化している。2024年に続き、新時代を迎える非営利セクターの特集を行う。2025年のキーワードは「ソーシャルR&D」という造語だ。同特集では、NPOだからできる「ソーシャルR&D 50」と称して、50団体のリストも掲載。今後、経済社会における重要な役割を担うであろう「NPOの今、未来」とは。

2025年新春、予定より2年半遅れて「希望のまちプロジェクト」が着工した。37年間活動を続けてきた抱樸・奥田知志は今、なぜ「希望」を語るのか。


2025年2月、抱樸・理事長の奥田知志は、福岡銀行本店の最上階にいた。対話の相手は福岡銀行頭取の五島久。抱樸が進めている「希望のまちプロジェクト」に、環境や社会課題の解決を目指すポジティブ・インパクト・ファイナンスによる同行からの5億円の融資が決まったためだ。

「九州では天下の福銀が『希望のまちプロジェクト』の意義を認めて後押しをしてくれたのは、私たちだけでなく、社会に対してもインパクトのあることだった。『大言壮語してほんまにできるんかいな』という声もあった。実際に建設資材や人件費の高騰で建設費は当初の10億円から15.4億円まで膨らみ、着工も遅れていたしね」と奥田は話す。

「希望のまちプロジェクト」新築工事2025年10月1日の様子。
「希望のまちプロジェクト」新築工事2025年10月1日の様子。

抱樸は福岡県北九州市を拠点に、困窮者・ホームレス支援、子ども・世帯支援、居住支援、就労支援、更生支援、各種福祉事業など多岐にわたる活動をしている。抱樸が手がける「希望のまちプロジェクト」とは、北九州市小倉にあった特定危険指定暴力団・工藤会の本部事務所跡地で、自由度の高いNPO法人と専門性の高い社会福祉法人が連携して支援を行う取り組みだ。26年夏の開設を予定し、3階建ての複合型社会福祉施設を建設中だ。1階には、あらゆる相談にワンストップで対応する「よろず相談窓口」が常設され、「学習支援」「子どももあつまれる居場所」「地域の方々の日常生活のサポート」「地域交流の場の提供」をはじめ、子どもから高齢者までの全世代が、誰でも利用できる交流空間が整備される予定だ。

特定危険指定暴力団本部事務所跡地に建つ建物の1階には、「大きな家族」の「大きな居間」となるホールを地域にも開放する予定だ。
特定危険指定暴力団本部事務所跡地に建つ建物の1階には、「大きな家族」の「大きな居間」となるホールを地域にも開放する予定だ。

「暴力団本部があり、『こわいまち』といわれてしまう北九州。ここから、希望のまちをつくりたい。あるべき社会をつくりたい。自立支援の現場では社会復帰が課題となるが、『果たして復帰したい社会なのか』という『問い』に対する私たちの応答でもある。自己責任論が強くなりすぎて、『助けて』と言えない社会になっている。誰でも『助けて』と言える、みんなが『ホーム』になれる場所をみんなでつくるというものだ」(奥田)

「縦の成長」と「横の成長」

「希望のまちの目的には『助けてと言えるまち』のほかに、家族機能の社会化による『まちを大きな家族にすること』、相続の社会化による『まちが子どもを育てること』もある。家族だけにすべてを押し付けることをやめて、まちで『なんちゃって家族』をつくる。例えば、葬式もここで出会った赤の他人が家族として行ってしまえばいいんです」

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文=山本智之 写真=淺田創

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