経済的困窮(ハウスレス)と社会的孤立(ホームレス)に対して「ひとりにしない」という支援をしてきた奥田がそう語る背景にあるのは、単身世帯の増加、子どもの貧困といった社会構造の変化とそれがもたらす困窮、孤立の深刻化だ。単身世帯、高齢者単身世帯、ひとり親世帯ともに増加が予測され、40年には約4割に達し、5世帯に2世帯が単身世帯となる。家賃の支払い能力や孤独死などへの不安から、単身の高齢者や低所得者は家の契約を敬遠されがちだ。今後、就職氷河期世代の高齢化が進むにつれ、全国的な課題となる。社会保障の制度も、家族と住まいを前提としたものだ。こうした構造がさらなる社会課題を生み出し、複雑化し、混迷を深めさせる。
抱樸が、困窮者・ホームレス支援を始めたのは1988年。2000年にはNPO法人化し「一日も早い解散を目指した」ものの、08年のリーマン・ショック後に、若者ホームレスが可視化されたことで「目先の問題の解決だけでは解散できない『構造』があると気づかされた」と「まちづくり」に取り組むことを考え始めた。14年に団体名を抱樸に変えた時には「僕らはどんな社会を目指すのかと。どういう地域社会を作ろうとしているのか」をみんなで議論した。そして、子ども・家庭支援、高齢福祉・日常生活支援、居住支援、就労支援、更生支援、政策提言などにも次々と取り組んできた。25年8月には、北九州市とも連携協定を締結している。
福岡銀行頭取・五島との対話のなかでは「資金だけでなく、何か協力させてくれませんか」という話も出たという。奥田は「社員研修をご一緒しませんか」と答えた。「これまでの社会は、経済成長、GDP、生産性など『縦の成長』を目指してきました。縦の成長が悪いわけではありません。ただ、ありのままを受け入れて、つながり、助け合うという『横の成長』という価値観があってもいい。人は共に生きることができる。僕らの現場にきて、新たな地域共生社会のモデルを通して感じてほしい」と話す。
この抱樸の「希望のまちプロジェクト」に期待を寄せるのは、もちろん経済界や自治体だけではない。5000人以上から6億2000万円という「破格も破格」という金額の寄付が全国から集まった。「僕らへの寄付は、『(社会にある穴を)埋める寄付』ではなく、『(新しい社会を)創造する寄付』。このみんなでの新しいまちづくりに思いのほか多くの人が賛同して参加してくれました」。
社会が変わっていくときに必要なのは「悲惨と希望」だと奥田は言う。「社会が悲惨な現実になったときだからこそ『希望』を言い続ける必要がある。
希望とは『可変性への信頼』。みんながあきらめたところが変わることなのではないか。『人も社会も絶対に変わるんだ』と」。だからこそ、奥田は今、こう振り返る。「まだ建設できていないですが、着工した時点で私は希望を見ているんです。この社会も捨てたもんじゃないし、人間っていいなと」。
おくだ・ともし◎NPO法人抱樸理事長/代表。、東八幡キリスト教会牧師。1990年、東八幡キリスト教会に牧師として赴任。同時に「ホームレス支援」に北九州でも参加。現・抱樸の事務局長等を経て、理事長に就任。


