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2025.10.27 13:30

新キーワード「ソーシャルR&D」NPO座談会で語られた社会の未来とは

(写真左から)村田早耶香・杉之原明子・斎藤祐馬・佐俣アンリ・小沼大地

(写真左から)村田早耶香・杉之原明子・斎藤祐馬・佐俣アンリ・小沼大地

2025年10月25日発売のForbes JAPAN12月号第2特集は、「『ソーシャルR&D』を実装するNPO50」だ。気候変動、貧困問題、格差、分断、社会不安―。世界は複雑化し、社会課題は多様化し、深刻化している。2024年に続き、新時代を迎える非営利セクターの特集を行う。2025年のキーワードは「ソーシャルR&D」という造語だ。同特集では、NPOだからできる「ソーシャルR&D 50」と称して、50団体のリストも掲載。今後、経済社会における重要な役割を担うであろう「NPOの今、未来」とは。

社会問題が多様化、複雑化、深刻化するなかで、今、NPOに大きな注目が集まっている。新たなキーワードである「ソーシャルR&D」から、「新たな経済社会」への道筋を考える。


「NPO新時代への移行期」である今、新キーワードとしてあげるのが「ソーシャルR&D(研究開発)」という造語だ。この言葉がなぜ重要なのか。実践者である、かものはしプロジェクト・村田早耶香、みんなのコード・杉之原明子、そしてビジネスセクターから非営利セクターとの協働、支援を行っているデロイト トーマツ ベンチャーサポート・斎藤祐馬、ANRI・佐俣アンリ、新公益連盟・小沼大地の5人で議論してもらった。

小沼大地(以下、小沼新公益連盟では現在、「NPOは何者で、これからの社会に対してどのような価値を出していくのか」について問い直しています。背景にあるのは、大企業やスタートアップも社会課題解決を志向し、「社会を変える主体」としてのNPOの認知度が下がってきていること。そして、社会課題解決を志向する主体が増えながらも、経済合理性で解決できる課題領域からこぼれ落ちる人たちとの断絶が大きくなり、社会全体の包摂を取り戻すことが難しくなっている現実です。

今回は「ソーシャルR&D」というキーワードについて議論したいです。経済性では届けられない社会課題があるなか、誰も解決できないような課題に先陣をきってタックルしているのがNPOではないか。つまり、「社会のなかで最も難しい課題のR&D」をし、そして、R&Dで問題解決手法を見いだしたら企業や行政などリソースがあるところにパスをしていくことも意味する造語です。この言葉を軸にNPOの可能性について議論できればと思っています。

杉之原明子(以下、杉之原みんなのコードは、「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」というビジョンを掲げ、学校と地域の両面から情報教育にまつわる構造的格差に取り組んでいます。私自身はベンチャー企業で働き、前職のIPO(新規株式公開)を経て、みんなのコードに移り5年になります。これまで大切にしていた問いに、みんなのコードの「みんなって何なんだ」というものがあります。前職時代、「みんな」というと、需要、支払い能力の有無が先にあった。ですが今は、離島の学校、ジェンダー、特別支援学校は……と「みんな」が広がっています。こうした発想ができるのは、非営利ならではの「思考の転換」でした。

現在は、10年に1度の頻度で実施される2030年代の学習指導要領の改訂に向けて、プログラミング教育に関する実態調査を小・中・高校で行ったり、自分たちで学習指導要領案を70ページ以上つづったりしてきました。同時並行で生成AIが出てきて、先生たちと一緒に授業づくりをして、授業の支援をして、文科省に提言もしました。目の前の生徒の変化を国の政策などに反映させ、実証を通じて構造や土台を良くして、より多くの子どもたちに届けていく。これが私たちが10年で見いだしたNPOなりのインパクトの出し方であり、企業や行政と一緒につくっていくかたちだと思っています。

むらた・さやか◎かものはしプロジェクト共同創業者。大学在学中の2001年、東南アジアNGO訪問時に児童買春の深刻さを知り、02年に仲間と共に児童買春問題に取り組むかものはしプロジェクトを設立。
むらた・さやか◎かものはしプロジェクト共同創業者。大学在学中の2001年、東南アジアNGO訪問時に児童買春の深刻さを知り、02年に仲間と共に児童買春問題に取り組むかものはしプロジェクトを設立。
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文=山本智之 写真=平岩亨

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