──その姿勢は企業にも必要なものだと思いますが、多くの従業員を雇い、膨大な数の人々にサービスを提供し、世界の経済に影響を与える大企業こそ、「合理的利他主義」を推進すべきでしょうか。
アタリ:「合理的利他主義」はあくまでも将来世代の利益を考慮するという考え方のことです。企業は雇用を生み出しているだけでは不十分で、大事なのは事業の内容なのです。
では、どんな事業が将来世代の利益につながるのでしょうか。その重要な指針となるのが、私が「命の経済」と呼んでいる生産活動です。「命の経済」は将来世代の役に立つ生産活動のことです。特に温室効果ガスの少ない生産活動を私は重視しています。
以下に列挙してみましょう。医療、スポーツ、公衆衛生、教育、持続可能な移動手段、健康食品、デジタル、ポジティブなイノベーション、再生可能なエネルギー・インフラ(水素、太陽光、風力)、持続可能な交通インフラ(電車、自転車専用レーン、充電スタンド)、健全な農業、水と材料のリサイクル、浪費の削減、治安、防衛、文化、民主主義、メディア、持続的な金融と保険、法の支配、社会正義も含まれます。
一方で、将来世代の自然環境に害をもたらす生産活動が「死の経済」です。例えば、化石燃料の生産、それらの燃料を使用するさまざまな活動、肉製品、人工甘味料、タバコ、薬物などです。また、アルコールやビデオゲーム、SNSなど、濫用すると有害な製品の利用も制限されるべきです。
現在、「命の経済」の生産活動は世界のGDPの40%に過ぎません。私はこの割合を80%まで引き上げ、「死の経済」の分野で活動する企業を「命の経済」の分野へ移行させる必要があると考えています。
──「死の経済」を縮小させ、「命の経済」を拡大させていくと、どのようなことが起こりますか。
アタリ:とくに、再生可能エネルギーに関する新たなインフラ整備は、急成長する見込みです。したがって、「命の経済」への移行により、GDPは大幅に増加するとみられます。
新たな経済によってもたらされる付加価値の分配配分は、資本家に対しては減るかもしれませんが、労働や自然環境に対しては増えます。また、経済活動にともなう二酸化炭素排出量は減り、安定的な雇用が創出され、所得格差は縮小します。
2050年までに気温の上昇幅を2度以内に抑える確率を5分の4にするためには、その時までに一人あたりの二酸化炭素排出量を1930年の水準にまで減らす必要があります。これを実現させる唯一の道筋は、「死の経済」から「命の経済」への転換なのです。
変化できる企業は生き残る
──2050年には、どのような企業が生き残り、どのような企業が苦境に立たされると思いますか。
アタリ:「死の経済」に属する企業は脅威にさらされるでしょう。特に工業的な農業企業、石油企業、過剰に甘い食品を製造する企業などです。彼らは強力なロビーをもっていますが、人々は戦いに勝てるはずです。タバコ産業が多くの国で力を失ったように。
さらにSNSの力も抑える必要があります。さもなければ、人類は自分の人生をコントロールできない「ゾンビ」と化してしまう恐れがあります。また、ひとつの事業に固執する企業は大きな市場環境の変化が起こったときに行き詰まります。一方で、事業の多角化を進めるなど変化できる企業は生き残ります。


