スターシップでは間に合わない
ダフィー氏がアルテミス3の再入札に踏み切ったのは、2030年に有人月面探査を実施しようとする中国が、その計画を前倒しする可能性があるためだ。これはCNSA(中国国家航天局)の公式発表ではないが、中国が2028年を努力目標としていることが、CNSAの議事録などから明らかにされている。また、ダフィー氏はFOXのインタビューで、「大統領と私は、大統領の任期内に月着陸を実現したいと考えている」と述べている。トランプの任期は2029年1月までだが、おそらく米政府とNASA高官は、現状のままではそれにさえ間に合わないと判断したと思われる。

有力な代替候補としては、ジェフ・ベゾス率いるブルーオリジンの「ブルームーン」が挙げられる。前述したように、ブルーオリジンでは現在、2030年に予定される「アルテミス5」に向けて「ブルームーンMK2」の開発を進めているが、これを2027年に前倒しすることは不可能だ。ただし、ひと回り小型の無人月輸送機「ブルームーンMK1」はすでに実証段階にあり、2026年初頭に飛行テストを予定している。これを有人仕様に改造することをNASAは考えている。ダフィー氏はインタビューで、「NASAはHLS(月着陸船)の生産をブルーオリジンや他の在米企業に開放している」と述べ、この事態を見越してブルーオリジンが、すでに有人仕様のMK1の開発に着手していることを米Ars Technicaが報じている。また、ロッキード・マーティンにも参入の意思があるようだ。
「スペースXが遅れ、ブルーオリジンが実現可能なら、ブルーオリジンに任せる。ただし、2028年に両企業が月に行く可能性もある」と、ダフィー氏が語っていることから、スターシップの遅延が即座にスペースXとの解約とはならないようだが、今後、マスク氏とダフィー氏、またはトランプ大統領との舌戦が繰り広げられることになりそうだ。


