ロケットの第2段(上段)が宇宙船を兼ねるスターシップHLSの場合、低軌道に達した時点で推進剤がほぼなくなるため後続ミッションを果たせない。そのためスターシップHLSを月面に着陸させるには、まずはこの「Depot」が打ち上げられ、低軌道に配置される。その後、「タンカー」と呼ばれる推進剤補給船を複数機打ち上げてDepotのタンクを満たす。そして最後に「ランダー」と呼ばれるスターシップHLSを打ち上げ、Depotから推進剤の補給を受けて月へと赴く。

軌道上長期テストと補給テスト
こうした運用工程で特に課題とされるのは軌道上での推進剤補給だ。補給回数が多ければ、タンカーの機数、ミッション期間と成功率、安全性、コストなどに大きく影響する。スターシップHLS(V3仕様)は最大1600トンの推進剤搭載を想定しているが、このレポートでは月面着陸ミッションに必要な推進剤を1200トンと見積もっている。Depotが一度に運べるペイロード(積載量)が100~150トンだとすれば、HLSを満タンにするには8~12回の補給が必要となる。ただし、極低温状態を保つ必要があるスターシップの推進剤からは、一定量のボイルオフ(蒸発)の発生が避けられない。それを制御するための極低温流体管理(CFM)の技術は現時点でも確立しておらず、そのため補給の回数は今回のレポートでも明らかにされていない。おそらく補給回数は、イーロン・マスク氏が開発の初期段階(2021年)で見積もった4〜8回を大きく上回るだろう。2023年12月の時点でNASAは、DepotとHLSを含めた全打ち上げ回数を20回弱と見積もっている。



