英ウェストサセックスと米ウィスコンシン州に拠点を置くスタートアップ、「Leo Cancer Care(レオ・キャンサー・ケア)」は、がんの陽子線治療の前提を変えようとしている。従来は患者を寝かせ、巨大な照射装置を患者の周囲で回していた。この装置はあまりに大きく、病院の一室には入らない。米国では専用の放射線治療棟を新築し、約1億ドル(約150億円)規模の投資が必要になるケースもある。それが普及のブレーキになってきた。
Leo Cancer Careは患者を椅子に座らせ、椅子側を回転させる方式を採用した。必要面積は約2700平方メートルから約158平方メートルまで縮む。従来はバスケットボールコート6面分の広さが必要だったが、1コートの4割程度のスペースで済むわけだ。コスト負担も下がるため、スタンフォード大学病院や米ミシガン州のマクラレン・ヘルス・ケアは、すでに数十台単位での導入計画を進めている。
巨大すぎる陽子線治療、名門スタンフォードすら導入断念
スタンフォード大学の「スタンフォード・ヘルス・ケア」は長年、最先端のがん治療のために最新式の陽子線治療装置の導入を試みてきた。しかし、最大のハードルとなったのが設置場所の確保だった。
がん細胞を正確に狙って放射線を照射する陽子線治療装置は、非常に巨大なマシンだ。サッカー場ほどの広さに、3階建て程度の専用施設が必要とされ、建設コストも5000万〜1億ドル(約77億~約150億円。1ドル=154円換算)に達する。名門のスタンフォード大学病院でさえ、その設置には大きなハードルがあった。特に、地価の高いパロアルトでは、そのような大規模施設を建てる余地がほとんどない。
「実現に最も近づいたのは数年前だった。当時は、近隣のパロアルト退役軍人病院(VA病院)と協力して設置計画を進めていた」と、スタンフォード大学の放射線腫瘍学教授のビリー・ルー医師はフォーブスに語った。「しかし、プロジェクトのコスト見積もりが日を追うごとに膨らみ、ワシントンのVA本部まで承認が進んでいたが、最終的にまったく現実的ではなくなってしまった」。
発想の転換、患者を「寝かせる」から「座らせる」へ
そして3年前、代替案として浮上したのがLeo Cancer Careが開発した、従来の陽子線治療装置の改良版だ。このマシンは、従来のようにベッドに横たわった患者の周囲を放射線ビームが回転する方式とは異なり、患者を座らせ、その椅子自体をビームの周囲で回転させる仕組みだった。
この一見単純な発想の転換が、劇的な変化をもたらした。必要なスペースは約2700平方メートルからおよそ158平方メートルへと、90%以上も削減された。
例えば、日本の一般的な体育館で使うバスケットボールコート(FIBAサイズ)の面積は、約420平方メートルだ。従来の装置はコート6.4面分のスペースが必要だったが、改良版の場合は1コートの4割程度の広さ(フルコートの0.4面分)で済むようになったわけだ。
その結果、コストは大幅に下がり、厳重な放射線の遮断を要する陽子線装置であっても、希望する場所に設置しやすくなった。
スタンフォードは、椅子と画像技術を手がけるLeo Cancer Careと、小型陽子加速器を開発したMevion Medical Systems(メヴィオン・メディカル・システムズ)の技術を組み合わせ、2024年に新しい治療施設の建設を始めた。ルー医師は、このシステムの導入によって、医師たちがより効果的に、そしてリスクを抑えてがん治療を行えるようになることを期待している。
「コンセプトは非常にシンプルだが、実装はかなり高度だ。その影響は非常に大きい」とルー医師は語る。



